花こぶし 🍃

上月くるを

花こぶし 🍃




 さいしょから疵つくために生まれて来たような……。

 そんな気がするのは早春一番に咲き初める辛夷の花。


 ひらひらとうすい純白の花びらは、かすかな風に擦れ合っただけで、もう疵つく。

 咲くと同時に薄茶色に褪せる運命にある……そんな儚さが痛々しくてなりません。




      👨‍🦽




 今朝のニュースで、駅や商業施設などの混み合うエレベーターにいつまでも乗れずに困っている、車いすやベビーカー、杖をついた方々の話題が報じられていました。


 そのときぞわぞわした違和感を抱いたのは「ユーザー自身が声を出せばいいのに」という大方の意見……専門家と言われる研究者までが同様なことに呆然としました。


 え、そうじゃないでしょ、近くに居合わせた人たちが「場所を開けてください」と言うのが本当でしょう、困っている当人に勇気を要求するより、そっちが先だよね。




      🚌




 外出の支度を中断してまでヨウコさんが憤ったのは、かつて、若い友人がほろほろ泣きながら告げてくれた首都圏の路線バスの一件を思い出したからかも知れません。


 停留所で待っていた車いすの男性に、ドライバーは面倒な態度を隠さなかったし、なんとか乗車すると、乗客のシニア女性たちが「迷惑だわ」と聞こえよがし……。


 この街の人たちはなんて冷酷なんだろうと、この市に住むのがいやになりました。

 読書で培われた義の心の強い友人は、華奢な肩をふるわせて訴えてくれたのです。




      🌞




 風さん、どうか強く吹かないで。

 せめて辛夷の花が咲ききるまで。


 ヨウコさんの願いが届いたのか、雨上がりの朝はほとんど無風で太陽がにっこり。

 どっと外へ出始めた人たちのかげで辛い思いをするだれかがいませんように……。




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