[08]お前はなにを考えていたのだ(終)
そう王の国は衰退するが滅びるほどではなく、発展せず、また現状維持もできず、下方を彷徨うことになる。だが国がなくなるような出来事は決して起こらず――
神がいずれ許してくださったら、滅びることもできるだろう。いつになるのかは、知らないが。
「あの召喚された娘、はやく帰られたほうがいいのでは」
サーディレがそう言うのも無理はない。
こんな国の権力闘争に巻き込まれたのだから、早々に離脱するべきだ。
(戻ったら、戻ったでここと同じような状態になるぞ)
「?」
……そう思っていたのだが、四條が語るには、希世が召喚した【じょしこうせい】は、交通事故――馬車のようなものに轢かれることらしい――に遭遇し、亡くなる運命とのこと。
(交通事故死する運命に囚われているから、帰還した瞬間に事故に遭うことになる)
「……それは、それは。王妃と良い関係を気付くことができていたら、その運命から解放された?」
(そのくらいの報酬は払っただろうな)
でも実際は、王妃と【じょしこうせい】の間に、交流はなく……もとの世界に戻ったら絶対に死ぬことを、希世は教えるのか……帰ると言ったら、直前で教えそうなタイプだ。
**********
翌日、私と皇子は聖家へと招かれた。
そこで元王妃が聖姫であること証明する書類を作り、聖国など主要な所へ届けさせることにした。
書類作成が終わってから、聖家でのもてなしを受けた。
そこには、昨日とはうってかわって生気に溢れた元王妃の姿が。
「急いで神殿にはいる必要はありませんよ」
わたしは、少し気分転換に遊ぶ事を勧めた。
当主を含む聖家の一族の人々は、戻ってきた聖姫王妃のことを大事にし、共に過ごす時間を多いに作っている。
息子に当主の座を引き渡し、田舎で隠居生活を送っていた先代聖家当主夫妻――当主と元王妃の両親の元へ、直接向かうとのこと。
それがいいだろう。
……で、田舎へ行きたいので、仕事を代わりに引き受けることにした。
「それは代理として、イスハを無事に届けましょう」
「お願いします!」
「ありがとうございました!」
田舎へ向かう前に私たちを見送ってくれた、聖家の面々。
そして当たり前のように、ともに行動しているサーディレ。
まだもう暫く、サーディレと共に旅が続くことになるようだ――それと【じょしこうせい】はまだ帰っていないらしい。
元王妃が田舎へ行ってしまうと、希世もついていくので、もとの世界に戻せる者がいなくなる……帰してやるとは言ったが、死亡が確定している場所へ送り返すと解った以上、積極的に返したくはないので、さっさとこの国を去ることにしよう。
「先代当主たちが隠居している田舎が、王都に成り代わるのでしょうね。歴史を紐解けば、幾つもあった事例ですから」
サーディレの言葉通りになるのは、サーディレの言った通り歴史が証明している――そろそろ歴史を教科書にして、回避行動を取れるようになってもいいのではないだろうか?
**********
「イスハ」とは聖家の者が祈りを捧げた、植物の種子のことを指す。
国にいる聖家に頼めば? と思われそうだが「イスハ」は全ての国の聖家の祈りを受けた種子のこと。
私が”みはな”から預かった「イスハ」は、正確に言えばまだ「イスハ」にはなっていない。「イスハ」にするために、祈りを捧げている途中。
「次はローレイ王国か……そう言えば、ディア姫はどうなった」
(帰されたぞ。国王の旺千は未だにお前の帰りを待っているぞ)
四條が怖ろしいことを言い出した。
そして本当にディア姫を帰したのか……正気か? 国王。
「ろくな国王がいない」
「耳が痛いです」
「サーディレ皇子のところは、皇子ですから」
(慰めになってないぞ、世羅)
解ってる。わざわざ言わなくていいぞ、四條。
**********
ローレイ王国に到着し――王に会うのは面倒だが、前の国と同じく王に会わないで立ち去るのは……。
でもあまりに面倒なので、少し後回しにすることにして、まず最初に聖家へと向かい「イスハ」にする種子を渡した。
「……それは、大変でしたね」
ローレイ王国の聖家当主デーデスは、私の旅の話を聞き「それは……」といった表情になった。
「国王に会いたくないのも解りますが、会っていただけないでしょうか?」
それでも国王に会って欲しいと依頼され――ディア姫の父親である国王に会うことに。もともと避けるつもりはなかったのだが。
(ディア姫は泣き暮らしている……という噂だが、実際は呪っている)
四條に帰されたディア姫の様子を探らせたところ「泣き暮らしている」という噂を流させて人払いをして、呪いを掛けていると。
「効果はありそうなのか?」
(…………)
「なにその顔」
四條の表情が薄ら笑いに。神の遣いがしていい表情ではない……と言いたいのだが、神の遣いは似たような表情を浮かべるヤツが多い。
人間がこんな薄ら笑い浮かべていたら、全員目を逸らすだろうなーと思わせる、悪い表情だ。
「…………は? 本当のこと?」
(嘘をつくと思うのか)
「思うし、嘘つきまくりだろう? 四條」
(たしかに)
「どうしたのですか?」
私と四條のやり取りを聞いていたサーディレが、何ごとかと聞いてきたので、私が故国を出立する頃に起こった出来事を教え、
「……で、ディア姫は帰された。そのことにディア姫が怒りを覚え、呪いの儀式を行っているそうです」
「それは…………」
サーディレは「よくあることですね」と、呆れたような納得したような表情を浮かべて頷いた。
俗世には良くあることなのだろう。でも、呪った相手が――
「ディア姫の帰国を命じた王ではなく、王の心を奪った相手を呪っているそうです」
「王の心を奪った相手…………え?」
サーディレは私から聞いた話を反芻し――長い話ではないので、すぐに該当者が目の前にいることに気付き、大きく目を見開き、口をはくはくさせる。
「いまこの国の守護霊が、私に向けられているディア姫の呪いを止めていて、その守護霊から”どうしますか?”と四條に連絡があったのです」
そしてガクガクと震え出した。
聖家の人間を呪うだけで無謀。更に言えば、聖姫であり女神にもなった私を呪うということは、破滅を意味する。
「ど、どうなされる、おつもり……で」
サーディレがどもりながら、先を尋ねてきた。
「どうする……ですか? それはサーディレ皇子もお解りでは?」
私の台詞にサーディレは膝をついて項垂れた。
「四條。呪い返し、できるな?」
何故私を呪うの? 真に呪うべきは旺千の方だと思うのだが……そんなことを、今更言っても仕方ないが。
(できるに決まっているだろう)
「返す時に、倍にすることは?」
(できる)
「二倍程度じゃ面白くないから、四條ができる最大で返して」
(全く以て世羅らしい)
こうして大国ローレイは、一夜にして滅ぶことに――他人事のように言っているけれど、滅ぼすよう命じたのは私です。
ちなみに聖家の人たちは助かっています。
「そうでしたか」
この国の聖姫は、神殿入りしているので(乙女の息吹のときに会っている)聖家の当主デーデスに「ディア姫が私を呪っている」と手紙を認めたのだが、届く前に呪い返しにより、国が滅んでしまった。
手紙が届いたところで、滅亡回避は無理だけど。
「致し方のないことです……それにしても、凄い力だ。ディア姫の呪いを何倍にしたら、こんな威力になるのか」
デーデスは周囲を見回す。そこにはすっかりと変わってしまった景色が広がっていた――ローレイ王国の街は全て無に帰した。人が消えたのはもちろん、建物も消え去っている。
ここまでやるとは……思っても……四條、すごい力持ってたんだなあ
知らないで命じたのかって?
聖姫を呪う人間なんて、そうそういないので。私も今回、初めて呪われたから、思わず「やっちまいなー!」したんだ。この惨状が知られれば、二度と呪われることはないと思うけど。
「本当にご一緒して、よろしいのですか?」
デーデスが一族を代表して聞いてきた。
「もちろん」
デーデスたちは国が滅んでしまったので、他の国から王を連れてきて、この地に新たな国を興す。
「あの時はマクイス皇子のせいでゆっくりとお話できなかったので」
マクイス皇子の弟、隣にいるよ、ローレイの聖姫……いや亡国の聖姫か。
「本当に申し訳ない」
サーディレ皇子はばつが悪そうな表情だ。
(世羅。あそこにイスハになる前のが転がっているぞ)
四條にそう言われて、私は地面に膝を折り指し示された場所に手を伸ばすと、私がこの国へと持ってきた種子が見つかった。
複数の国の聖家の祈りが込められたものなので、四條の呪い返しからも逃れられたようだ。
「イスハは完成させておこうか」
(それがいい)
「じゃあ、次の目的地は――」
(ああ、ディア姫は死んでないぞ)
それは解っている。なにせ神はじわじわと成される御方だから――
「さて、では行きますか」
こうして私は亡国聖家の一族と、サーディレと共に旅立った。私たちの旅は始まったばかりだ――
”おわり”
羇旅――聖なる姫による(当人は一切望んではいない)ざまぁ旅行記―― 六道イオリ/剣崎月 @RikudouI
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