[07]お前は上手くいくと思っていたのか?(恐)
色ボケそう王は王妃が聖姫だということを、やっと理解したようだ。
「では王妃は……」
異世界トリップのお約束に嵌まった色ボケ王だが、知識がないわけではないらしく――
「王妃は貴方のことを、嫌ってはいなかったということだ」
王妃が色ボケ王のことを本当に愛していたことだけは告げておいた。
王妃が本心から色ボケ王を拒んでいたら、存在を認められていなくとも希世は色ボケ王を殺害した。
サーディレが女神選出後に起こった出来事を話し、念押ししたら色ボケ王は崩れ落ちた。
対照的に王妃はつきものが落ちたかのような状態になり、
「では私は聖姫としての人生を歩むこともできるのですね?」
「むしろ聖姫としての人生を歩んだ方が良いでしょう。希世との会話も必要でしょうし”みはな”との会話も必要でしょう」
王妃は私の言葉に背を押されたらしく、
「王、離婚に同意します。それでは【じょしこうせい】と仲良くなさってください」
即離婚を宣言した。
王族、それも王と王妃の婚姻関係解消など、そんなに簡単にできるものではないが、そこは聖家の誘拐された姫。
いままで散々蔑ろにしてきた聖姫の機嫌を、これ以上損ねるわけにはいかないので、即日離婚が成立することだろう。
長引けば長引くほど、じわじわと神にやられてしまうだろう……教えてはやらないが、自力で気付け。いや、この察しの悪さでは無理か
「ところで、王。王妃を誘拐した家の者たちは、どこに?」
王妃を誘拐した者たち――元宰相だったらしいので、宰相家と呼ぶが、彼らは確実に生きている。
何故なら、神はじわじわとなされるからだ――
「地下牢に」
「全員、ここに連れてきてください」
「何故だ?」
「本当に察しの悪い男ですね。二度も説明するのは面倒ですから、さっさと連れて来るように命じなさい。ほら、早く、急がせろ」
納得いかない表情の色ボケ王だったが、色ボケ王を納得させる気はないので無視して彼らの到着を待った。
そしてしばらくして、宰相家の人々が現れた。
元貴族とは思えない
いままでのやりとりは、面倒なので聖家当主に任せて、私とサーディレと王妃は軽食を楽しんだ。
玉座の間にテーブルや椅子まで運ばせて。色ボケ王の謁見の間なんだから、この位の扱いで充分。
「女神の言う通りだ! そうだ、私たちの目的は果たされた!」
聖家当主の話が終わった直後、元宰相が叫び出した……お前もか、宰相。
なにが「お前もか?」なのかというと、察しの悪さ。
この国の重職の察しの悪さって……もしかして、神によるもの? と四條を見たら「違う違う」と――元からこうなのか。
「まったく果たされていませんから」
「?」
私の言葉に元宰相が止まった。
「国王も察しが悪くて”この国大丈夫か?”と思いましたが、貴方達も一族揃って、察しが悪いというか……神を騙しきれると思ったんですか?」
色ボケ王と同じく、元宰相も視点を向ける先が間違っている……というか、出発地点からして間違っている。
「聖姫に苦しい思いをさせた貴方達の願いが、叶うとでもお思いで? 随分とおめでたいことですね」
謁見の間が静まり返った。
人間の目線でばかり見てどうするのだ? と――
「神が貴方達の真の目的に気付くことなく、この国に神罰を与えるとお思いで?」
私が言いたいことに、気付いたらしい。色ボケ王よりは、察しがいいようだ。
「根本を見落としている。王妃は聖姫であり、側には守護霊がいて、その守護霊は神に状況を届けることができ――そして神は全てを観ることができる。聖姫を誘拐して苦痛を与えた者たちの、真の願いを見過ごして神罰を下すと?」
元宰相の顔が引きつり、他の面々の表情が青ざめる。
理解したようだ――こんな策が神相手に上手くいくと思っていたのだろうか?
思っていたのだろうな。だから先代王のお妃選定のとき、負けたんだのだろう。こんな策くらいしか弄せないのだから 。
「この国は滅びることはありません」
そしてはっきりと教える。
「どれほど酷い状態になろうとも、決して滅びません。滅ぶことができないのです。そして元宰相とその一族も、死ぬことはありません。死んだ方がマシだという状態にはなりますが。王、貴方ももちろんそうなります」
具体的なことは解らないが、国は滅びない。色ボケ王も元宰相も死にはしない――
「元宰相一族は殺害しないほうがいいですよ。なにせ神の怒りを買っているのだから。そう王も同じですけれど」
そして私は聖家の面々と、あとサーディレと守護霊と共に城を去った。
「あ……」
わたしたちが城を出た瞬間に希世がやった。
「どうしました? 女神殿」
振り返って城を見上げたわたしに、なにも分からないサーディレが尋ねてきたので、教えてやった。
「希世が魅了の術を解いた」
【じょしこうせい】を中心に、男たちが寵愛を求めて集っていたわけだが、あれは希世が【じょしこうせい】に好意を持つように、術を掛けていただけのこと。
【じょしこうせい】本来の魅力などは、一切関係なしで無条件で愛される状態になる――守護霊は、そういうことできるんだ。
そして大体の守護霊はそういうことをするのだ――
魅了が解かれてしまった空間にいる【じょしこうせい】――本人に魅力があれば、そして希世の魅了の術に甘えずに地位を築いていれば、問題はないだろう。
感情を操れるのならば、色ボケそう王の気持ちを王妃に向けることができたのでは?
思うひともいるだろう。もちろん守護霊は好意を操ることなど簡単にできるのだが、世の中そんなに単純でもない――思っているほど複雑でもないけどさ。
**********
聖家の面々と別れた私とサーディレ、そして四條は高価な宿に入り、夕食を取りながら先ほどまでの怒濤の出来事について語り合う。
もちろん四條はなにも食べていないが。
希世の目的だが、誘拐され聖姫と認識されていない王妃を、聖家に戻すこと。そのためには私の協力が必要だった……のだそうだ。
私は王とは必ず面会しても、必ず王妃と面会するとは限らない。
なので王妃と必ず面会するように仕組む必要があった。それが【じょしこうせい】だった。私が女神になるより前に【じょしこうせい】を召喚して、ある程度国を混乱させておく。
守護霊が国家を混乱させていいの? などと思うかもしれないが、そもそも聖姫王妃が誘拐された理由が、世俗の出来事の延長。
王の配偶者選出にまつわる一連の権力争いがもたらした結果なので、国に関しては一切の考慮はされなかった。
これが神側に関係する出来事ならば、もう少し穏便に進めた…………何故だ? 何故首を振って否定するのだ、四條。
どこを否定しているのだ? 希世のことか? それとも神の御心か?
とにかく原因が王妃を誘拐した理由は、宰相家と王家の対立が原因。
対立が激化し、やってはいけないことを、いろいろとやった結果、宰相家は神罰が下ろうとも復讐してやると……となった。
その為の重要な駒である王妃。だが彼女と色ボケ王が良好な関係を築くと困る――そうなってしまえば、王家に強力な加護がつき、滅ぼすことができなくなる。
少しでも仲良くなられると、宰相家としては困るので、不仲になるように、王妃の悪い噂を流していたらしい。
せせこましいというか、器が小さいというか、貴族らしいと言えばいいのか。
宰相の姉、選ばれなくてよかったな。でも、色ボケ王の母親も似たようなものらしいけど。そして宰相がアレで、色ボケ王と色ボケ側近たち……神罰が下らなかったら、早晩滅びただろうな。
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