第17話 終生便り②

 

「以上をもちまして、フランクさんからお二人に宛てられた終生便りを配り終えます」


 牧場の中にある小屋、そのテーブルで自家製のミルクとビスケットを頂きながら3号はセイタン卿の朗読が終わるのを待ち、残り2枚のビスケットを遠慮せずにサクサクと食べると温かいミルクで流す。セイタン卿はあわよくば朗読を終えた後にビスケットを食べようと思っていたが、3号に全部食べられた。それに本来であれば閉口したり、恨めしそうもするのだろうが、今は配達先。ポーカーフェイスでチラリと目線だけ3号を見るが、今はそんなビスケットを食べられなかったという事を言う空気ではない。


「それではこちらをお返しします」


 修正便りの送り主の奥方と母親はセイタン卿が朗読した終生便りを受け取り、涙ぐみ。そして「ありがとうね。二人とも」と感謝される。それに「フランクさんはお二人に最後のお言葉を残せました。冒険者という方々あらゆる危険に見舞われる為、そんな一言ですら残せない方もいます」そういう意味では今回、終生便りを配った送り先は随分良い方なのだ。そして、その言葉を残せる人は大体が、大切な人へ“愛してる“という言葉を残す。「確かに、状況によってはただ絶叫や後悔のみを残しているお手紙もあるからね」と3号が補足する。きっとマシだなんて事を言ってはいけないのだが、終生便りを配っている配達員だからこそ、その終生便りに対して大きな差を感じる事ができる。

 

「フランクさんのお言葉にもあるように、お二人とも強く、生きてください」

 

 涙を拭きながら「そうね。泣いてばかりだとあの人に笑われちゃう。配達員さん、この手紙は一体どうやって作られて、どこから運ばれるんですか?」「そ、それは……」残念ながらそれについてセイタン卿は答えを持ち合わせてはいない。というか考えた事はあったが、配達を繰り返している内に段々気にならなくなっていた。答えに詰まっているセイタン卿に助け舟を出したのは当然3号。

 

「申し訳ない。トップシークレットなんです。そろそろワタクシ達はお暇させていただきます。ミルクとても美味しかったです。ご馳走様です」

 

 搾りたてのヤギのミルクを二人は頂いたのでそのお礼を言って帰ろうとしたその時、「二人ともちょっと待ちなさい! 帰りは長いでしょ?」と言って、大きな袋を渡してくれた。「これは?」「緊急用の保存食よ。そろそろ新しい物に変えようと思ってたんだけど、私達だけじゃ食べきれないので持っていきなさい!」と言ってセイタン卿の腕に乗せる。ずしりと重い。結構な量が入れられている。流石にセイタン卿も保存食というのは嘘で、これは食べ物を貰う事を悪いと思って断るかもしれない二人への配慮だったんだろう。基本的にセイタン卿も3号も食べ物を貰った際は基本断らない。以前、先住民のような生活をしている方へ終生便りを届けに行った際は蛇や昆虫など、その地の珍味をお土産にもらい。嫌々食べてみたらこれがかなり美味しくて、セイタン卿に関しては見てくれを気にせずに食べる。


 今回もくれる側の気持ちなので、そうなれば配達先の奥方と母親の厚意を無碍にはできないので、「ありがとうございます。大事に頂きます」とセイタン卿と3号は頭を下げてお礼を言う。「今度は仕事じゃなくて遊びにいらっしゃい」と、なんと答えて良いのか困った顔を見せずセイタン卿は二度同じ所への配達はそうそうない事と、自分達が自由にどこかに遊びに行ける日もこないだろうなと思いながら微笑んでこう別れの言葉を告げた。

 

「それでは、健やかに」

 

 3号は両手を広げ、有翼の何かに変わる。

 そしてその背に跨り、すぐに3号は羽ばたくと地上から離れていく「そういえば滑走路がなくても飛べるんですよね?」とセイタン卿が聞くので「滑走路があった方が楽なんですよ。翼の力だけで浮かぶのって結構しんどいんですよ」と返すので「あぁ、成程。お疲れ様です」としばし二人の時間。セイタン卿がゴソゴソと渡された袋の中を探るので「ほんと、セイタン卿はいやしんぼですね。お二人が見えなくなったらもう食べ物チェックですか……」と言われて、テヘヘと笑う。「うわぁ、パンにチーズにバターがこんなに沢山、それに……」「それに?」「いえ、何でもありません」「何かありますよね? 白状なさいセイタン卿」そう言われて、セイタン卿は3号の目に恐らくはお店で買えば高価なソーセージを見せた。「ソーセージじゃないですか! それも牧場自家製ときましたか、……てかセイタン卿。もしかして独り占めするつもりでしたか?」と図星をつかれて「いえ、そんな事は……ねぇ? あっ! 3号。ミルクの入った瓶もあります! 悪くなるとダメなので、食べてしまいましょうか! この豪華なお昼、中々ないですよ!」そう言って、3号をさすりながら機嫌を取るセイタン卿、「全く貴女という方は懲りないですね」とか言うが、飛びながらの食事でもセイタン卿が食べさせてくれるし、話し相手にセイタン卿がいるので、この時間が3号は至福だパンにバターを塗って、チーズ挟んで食べるとか、いつ以来でしょう?」「ワタクシの記憶にはないですね。こんな良い物食べた覚えは。それにしてもどれも本当に美味しい」。分かりきった事だが、3号が言う事にセイタン卿も頷くとバターとチーズをべったりとパンに塗った。それを頬張ると実に美味しい。それをミルクで喉を通す。

 

 明らかに保存食ではないそれらに気を遣わせてしまったかなと3号にセイタン卿は聞いてみたが「何かをしてあげたかったという宛先の方々の厚意は受けるべきですよ。それもまた仕事だとワタクシは思います。ウィンウィンですしね」「また3号は上手い事を仰る。そんな3号にはい、メインディッシュのソーセージです」と大きなソーセージを3号の口に入れる。咀嚼し「これは美味しい」パキンとセイタン卿もそれを食べて「おいし!」と喜びを露わにする。美味しい食事という物はすぐに無くなってしまう事を二人は少しばかり残念に思いながらセイタン卿は聞いた。「ねぇ、3号。聞いても良いですか?」「何ですか、藪からスティックに」「終生便りって一体どうやって作られて、どこから来るんでしょうね?」「さぁ、魔法とかいうのじゃないですか」適当かつ投げやりな回答が返ってきた。「そうですか、早く返ってご飯食べて寝ましょう」というセイタン卿に3号は妙な違和感を感じる。それは相棒である3号だから気づける直感的な物。「セイタン卿、何か隠してますか?」「いえ、どうしました? 3号の言葉を借りれば薮からスティックに」「なら良いんですが」と話はそこで終わる。セイタン卿はソーセージが三本あって一本残してある事を黙っていた。翌朝の麦煮は3号に多く盛り、ソーセージは独り占めしようとか考えているが、3号は何かセイタン卿が隠し事をしているなと読んで、局に帰ったら徹底マークしようと思う。

 

「3号、明日もよろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそ。セイタン卿の素っ頓狂なお話がないとワタクシ一日が始まる気がしないので」

「何ですかそれ!」

 

 心地よい風に遊ばれながらセイタン卿が笑うので、どうしょうもない気持ちを流し込むように3号は詩を読む。

 

「おぉ神よ。見守らずとも良い、願わくばこの夕凪を永遠に」

 

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ラスト・ノーティファイ〜終生便りの配達人〜 アヌビス兄さん @sesyato

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