第16話 終生便り

 まず、最初に、19号、それに3号二人とも今後お酒は控えてくださいよ! まぁ、と言ってもお酒を飲める機会なんてそうそうありませんが。


 それにしてもいろんな所に行きましたね? そして、咎人だというのに、案外色んな物を食べてきましたよね? お菓子もご馳走も、一人ではなく、貴女と食べる事ができたのでとても楽しかった。きっと幸せなんて感じてはいけない身分なんでしょうけど、どうなんでしょうね? そもそも私や貴女の罪って一体なんなんでしょう? 生きている事が罪、生まれた事が罪、ずっと考えていましたが、生きていれば人様に迷惑をかける事もあるでしょうが、そこまで? という程私は生きていて迷惑をかけた事はないです。それに生まれた事が罪だと言われてもはっきり言って知った事ないですよね? 


 さて、何から書いていきましょうか? 

 この手紙はそもそも届くのでしょうか? 何故ならこれは終生便りではなく、私の直筆の手紙なわけです。その為、リアルな最後の言葉が綴られる事はありません。貴女が残念がっている顔がなんとなく思い浮かびますよ。


 貴女は普通すぎてそうでもなかったかもしれないですが、私にとって配達をする時、貴女の背に乗って大空を羽ばたいた瞬間は毎日、いつでも誰よりも自由を感じていました。このまま遠くまで、この空の一番端まで貴女と飛べればどれだけ楽しいだろう。貴女は美しく、そして空を飛ぶ事も、綺麗な歌を歌う事もできる。私には何もない、だから一つ。食事を、あの不味い配給の麦をできる限り美味しく食べれるように研究していました。

 まぁ、貴女は私の事が大好きだったので、私を甘やかし、いつでも美味しいと言ってくれたのでどれだけあの麦煮が美味しくなったのか分かりませんがね。

 

 もし、もしですが天使という方々がいるとすればそれはとても残酷なのかもしれませんね。私達は土から生まれ、天使達は清らかな風と光から生まれたと聞きます。 

 天使達は私達土塊から生まれた者を見下し、嘲笑っているそうです。

 そう記載すれば貴女にも分かるかもしれません。私はついこの前、私が何者なのかようやく知る事になりました。天使達は私達土塊が生きている事が罪である理由を教えてくれました。そして、同時に貴女達、配達飛竜が何故生まれてきた事が罪なのかも知りました。天使達は自ら禁断の果実を食べ、そして私達にその残滓を残したのです。


 なるほどこれは実に酷い喜劇でなんと様になる悲劇なんだろうと驚いた物です。あれ程近くにいた貴女に触れられない今がとても寂しく、とても怖い。手を伸ばせば届く距離に貴女がいないという事、私がどれだけ貴女に依存していたのか今になるとよく分かります。私は制服を着れないわけじゃないんです。貴女に着せられないと、あの儀式がないと私の前から貴女がいなくなってしまうんじゃないかとそう怖くなっていたんだと思います。


 それが実際はどうでしょう? 私は罪の精算を終えて、一足先に外に出た事になっています。ささやかな送別会をみなさんがしてくださった事はきっと忘れません。私は罪人であっても局の皆さんという家族がいた事だけが、貴女がいた事だけが私にとっての唯一の幸せな思い出でした。


 罪の精算が終わった時、恐らく、私達配達人は、貴女達配達飛竜は全て泡のように消えてなくなるでしょう。そういう意味では私もまだ罪の精算の最中、私達の罪の精算はいつか必ず終わります。それだけは私は胸を張ってここに記載できます。ただ一つ不思議に思う事が、私達配達員がいなくなれば、終生便りはどうなってしまうのか? 


 冒険者がいなくなる事は絶対にないでしょうし、私達が配るよりも遥かに早い速度で終生便りは増え続けています。これは私の安易な予想でしかありませんが、終生便りは私達配達員がいなくなると同時に失われるんじゃないかと思います。


 あれはそういう物だったんだろうと今ならば私はそう確信しています。何故かというと、今私は冒険者達と一緒にいるからなのです。私以外にも元終生便りの配達人が沢山同じ馬車に乗っています。

 実は私は、というより罪を精算し局を出た終生便りの配達人達は今、とある炭鉱跡のダンジョンへとやってきています。

 そして少し自慢話をしてもいいでしょうか?

 今晩の夕食ですが、何を食べたと思いますが? 読んで驚かないでくださいね? チキンの丸焼きでした! 貴女の事です涎が出ているんじゃないですか? 多分、最後の晩餐という意味だと思います。この炭鉱のダンジョンは猛毒なガスが出ているらしく、私は冒険者より先にダンジョンを進み、毒ガスがあるかないかを確認する役目のようです。

 万に一つも、多分私は助からないでしょう。だから、私はお姉さんみたいな貴女が大好きだったとここに綴ります。


          19号、お元気で。

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