異世界のすゝめ

水城みつは

目覚め

 私が私だと気付いたのは五歳の時だった。いつもより早い冬の訪れだったという。初雪にはしゃいで走り回っていた私は新雪の下に隠れた池にはまってしまったらしい。幸いというか寒さによる仮死状態になった私は溺死は免れたが、生死の堺を何日か彷徨った。そこで私は私に会った。

 生前の私、今も生きているので前世の私と言うべきか、は日本という国で暮らしていた。とはいえ、ふんわりとそうであったと分かるだけではっきりとした記憶はない。ただ、五歳よりは大人であったことは覚えている。

 前世の記憶が戻ったときは西洋に転生したかと思っていた。街路には馬車が走り、ガス灯が灯っていたからだ。そして、ガス灯ではなく精霊灯だと知った時、ここが元の世界ではなく異世界、私は異世界転生したのだと悟った。

 私にとって異世界は驚きに満ちていた。夜でも煌々と街中を照らす精霊灯は各家庭にもあり、また魔力を使用した複雑な道具、魔道具が暮らしを豊かにしていた。前世にはない豊かさだ。

 前世に無いと言えば、魔力の存在がある。前世では武術の達人が使えたと眉唾もので言われていた気のような力を皆が使えるのだ。かく言う私も魔力はあるどころか普通の人よりも多いと言われている。魔法は十歳になってから教えてもらえるそうで今から楽しみである。

 前世の私は下級士族の生まれであったと思われるが、今世は華族、ここでは貴族のようであるが詳しくはまだわからない。今の私になってから半年は立つが父親は王都に詰めておりまだ帰って来ないのである。半年前は混乱気味であった意識も安定しており今世と前世の私は同一認識となっている。憑依とかではなく完全な転生であり死にかけたことにより覚醒したと思われるで少し安心した。

 前世よりも豊かで充実した異世界生活。まだまだ子供であるがおそらく若くして死んだであろう前世に負けないようすごしていきたいものだ。



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異世界のすゝめ 水城みつは @mituha

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