学校に戻った日からいじめが続いた。

私は身の程知らずの恋をして、一方的に暴走したという印象らしい。

好きな人を追いかけることの何が悪いんだろう。

こんなの、恋をしたら誰でもすること。

少女漫画でよくある、好きな人を目で追っちゃうとか、もし付き合えたらって妄想しちゃうとか、したことない人なんていないはずなのに。

私は、日に日に心がすり減っていく気がした。


けれど、一番の心の支えは優木さんがいじめに加担してこなかったことだった。

その場にはいるけれど、見ているだけ。手は出してこなかった。

私が目を合わせようとしたらすぐにそっぽを向いてしまう照れ屋さん。

やっぱり私と優木さんは運命で、本当はいじめをやめさせたいけれど自分が標的になるのが怖いだけなんだ。

そう思うだけでどんな日も頑張ることができた。

それに彼女が私を見てくれている。

何より幸せなことだった。


「白瀬さんってさ、いっつも何考えてるの」

水をかけられて髪を引っ張られてそう問われた。

私が大した反応をしなくなってつまらなくなったのだろう。

ここで、正直に言ったら優木さんが悲しんでしまうかもしれない。

彼女にいじめの矛先が向いてしまうかもしれない。

それは何より避けたかった。

彼女には、絶対に悲しんでほしくない。

彼女を守りたい。

「…、」

上手い言い訳が私の頭で考えられるはずもなく、黙ってしまった。

「どーせ新のことでしょ。人ってそうそう変わらないもん。新ってばかわいそー」

その言葉だけは聞き逃せなかった。

頭に一気に血が登る感覚。

「優木さんは可哀想な人じゃない…!いつも私のことを考えてくれていて、あんたたちとも関わりを持ってくれている人だよ!ほんとは嫌なはずなのに、」

「いやキモ」

ガンっと重たいもので頭を殴られた感覚だった。

短いけれど、どんな言葉よりも重たい言葉を放ったのは優木さんだった。

「ほら、一番可哀想なのは新でしょ」

「お前が被害者ヅラしてんなよ。このストーカー」



記憶がフラッシュバックした。

きっかけはわからない。けど、一方的に責められるこの感じをなぜか覚えていた。

父親との記憶。

嫌なことすぎて忘れようとしていたのか、もう昔のことで脳が奥底にしまい込んでいたのかわからないけれど、ずっと今まで思い出すことがなかった。

「何でお前が被害者ヅラしてんだよ!一番可哀想なのは俺なんだよ!!」

私に灰皿を投げつけてくる父親。私を守ろうとするお母さんは灰皿に加えて父親にさらに殴られて、気絶寸前。幼い私は大人の男である父親には一切勝てる見込みがない。

お母さんを助けることすらできない。

私はまた何か投げられまいと、気に障らないように父親の死角の位置に縮こまる。

父親がお酒に飲まれて寝ている時にやっとお母さんの近くに寄ることができた。

「お母さん、ごめん、ごめん…、」

涙する私を見て、お母さんは私をゆっくりと抱きしめる。

「大丈夫、大丈夫だから。お母さんが綾を守るからね。」

お母さんは続けた。

「もし、綾が一番好きだと思った人ができたら、絶対にその人の味方になって、守ってあげるんだよ。暴力はダメ。わかった?お母さんが綾にしたように、守ってあげてね。」

精一杯頷く私を見て、お母さんは満足そうに笑った。

家族で一緒にいる時にはあまり見ない、優しい笑顔だった。


次の日、お母さんは私を残して父親と消えた。



「おい。」

お腹を蹴られた衝撃で現実に戻ってきた。

過去も現在も酷いものだな。

"白瀬ってそんな人生送ってんだ。かわいそ"

誰かに笑いながらそう言われた気がした。かわいそう…?私が?

「何ぼーっとしてんだよ。」

座り込む私を見て優木さんとそのお友達は呆れた顔をしていたが、どうでもよかった。

私はかわいそうだったの?

そう思ってしまうと、頭の中がごちゃごちゃになってもう何も考えたくなくなった。

過去の私も、自分の父親がDVをする人間だったということも、私の今の母は実母じゃなかったという事実も、全て、忘れてしまいたかった。

このままゴミ箱に捨てられないのかと思ってしまった。



***



使えねーな、こいつ。

頬杖をついて、人の良さそうな笑顔を浮かべながらそう思った。

こいつは単純そうだし、お願いしたら宿題でも何でもやってくれそうじゃん!

そう思って近づいた。

確かに宿題とかさせたり暇な時の遊び相手としてはちょうど良かった。

なんか好きになられたから結果的には大失敗に終わってしまったけど。


ある日から、白瀬からの視線が熱いことに気がついた。

人の視線に人一倍敏感な私だからわかったことかもしれないけど、まさか白瀬からもそんな視線送られてくるだなんて思ってもいなかった。

まあ、これはこれで使い方次第で便利な人間が増えたなって感じたくらい。

そのまま放置したのが良くなかったのだろうか。


白瀬はある日の放課後、大きな声で私との意味不明な妄想を述べた後、ドンっと大きな音を立てたらしい。

放課後その場にいなかった私は、聞いた話でしかないから正確とは言えない。

大きな音がしたなーって見に行った人いわく、その場には何も残っていなかったとか。

音はどうでもいいんだけど、白瀬の妄想だけは聞き捨てならなくて注意しようと思ったけど、あいつは何故か一週間くらい学校に来なかった。

そのまま転校でもするのかと思っていたけれど、席はそのままで担任も体調不良としか言ってこなかった。

学校に来た白瀬は休む前より顔色が悪かった。色の合わない真っ白なファンデーションをつけたのかと思うほど青白い。体調不良は本当だったらしい。

けれど、そんな白瀬を心配してくれる心優しいクラスメイトはいない。だって私との妄想を大声で叫んだから。私のことを好きな人はいっぱいいるのだから、ヘイトが溜まるのは当たり前のこと。


私たちは優しかった。それはそれは信じられないほどに優しかった。

汚い顔を綺麗にしてあげようとしたから。

キモい妄想を大っぴらにした白瀬に、わざわざ運んできたバケツの水をかけてあげた。これはもうノーベル平和賞を取れるレベルだ。私たちは神様なのかも。それはそれは優しい女神様。後世に残してあげるべき。

そんな優しい私たちを見て付け上がったのか、白瀬は反省しているように見えなかった。


「白瀬ってさ、何考えてるか分かりやすすぎだよねー」

「ほんとそれ。好いちゃうのは?まあしょうがないことだし分かるんだけどさー」

マスカラを塗り直しながら話すと失敗しやすいけれど、もう慣れたもんだ。

鏡を改めて見てみると、私はやっぱり可愛い。

満足してポーチに仕舞い込む。

「新と両思いとか頭沸いてんのって感じ」

「うわ言えてる。新と両思いになれるのはやっぱ拓実くんみたいな完璧すぎるイケメンじゃないと!」

「うーん、まあ、たっくんならギリ合格?みたいな感じ」

「新ってば理想高すぎ!まあ、新レベルになるとそれくらい要望しても許されるかー」

「そんなこと言って拓実くんのことなんだかんだ好きなくせに!」

そうやって楽しく会話してたのに。

嫌なことはさっさと忘れようと思ってたのに。

トイレから出るとあいつが横切った。

「はー、だる」

「海外だとさ、黒猫が横切ると不幸せになるって言うじゃん?私たちの黒猫は白瀬だよね」

「えー、白瀬に黒猫は可愛すぎるでしょ。黒猫可哀想すぎ。…ねえ白瀬ってさ、宇宙人みたいだよね。」

白瀬は宇宙人。

みんなの脳内に妄想をベラベラと話す白瀬がみんなの脳内に浮かんだのがわかった。

そして、みんなが納得のいった顔をした。

「うわ、そうだわ。」

「宇宙人は話通じないもんね?」

「宇宙人って確か死体が残らないんじゃなかったっけ」

みんなが目を合わせた。

関わりたくない人、殺してしまいたい人、そもそも興味がない人。

私はもちろん殺してしまいたいと思っている人。


「やってみない?」


その場にいたみんなが、その言葉を待っていた気がする。




 一、白瀬を人がなかなか来ない場所に呼び出します。


放課後、少し陽が傾いてきたくらいを見計らって白瀬を校舎裏に呼び出してみた。直接ではなく、手紙を机の中に入れておいた。

私的にはどっちでもよかったんだけど、白瀬の想像している私像は手紙で誘い出しそうと言うのが一つの理由。

そしてもう一つは、ただ私が笑ってしまって呼び出せなさそうだったから。

「っあ、優木さん…。」

「白瀬さん!来てくれなかったらどうしようかと思った!」

校舎裏、放課後、そして呼び出す手紙に私の名前。

来ないわけがなかった。

「そんな、優木さんに呼ばれたらどんな場所にいても駆けつけるよ…」

キッショ。そんなこと聞いてねーんだよ。思わず吐いてしまいそうになるところをギリギリで抑える。

注意、酷い言葉が出てしまわないように気をつけましょう。

なんて現実逃避していないと頭がおかしくなりそう。

こいつ、生理的に無理かもしれない。

そう思っていても、私の顔は人の良い笑顔を貼り付けている。

こういう時は、作り笑顔が得意で良かったと思う。


 二、後ろからゆっくりと仲間を近づかせます。


イライラを抑えながらみんなにアイコンタクトを送る。

私のアイコンタクトに気づいたみんなは白瀬に気づかれないようにゆっくりと近づいてきた。

なんかぶつぶつ言ってモジモジしている白瀬は気づく様子が全くなさそうで今度は笑いが込み上げてくる。

そんな私の心情を知らないのに、何故か頬を染めて嬉しそうに笑っている白瀬。

最後に、どん底に落としてやりたいと心の底から思った。

落とすには一度上げなければいけない。

こいつを上げる行為は死んでもしたくなかったけれど、その後がすごく楽しみだったからついしてしまった。

「ねえ、白瀬さん、いや綾ちゃん」

「っえ、…な、なあに、あ、新ちゃん…。」

私が下の名前を呼んだことで何を思ったのか私の下の名前を呼んできた。

何こいつ、クソキモい。

キモいとしか思えない。

誰かに動画撮っていて貰えばよかった。

それなら笑い物として扱えるから私の心も気が楽なのに。

「綾ちゃんってさ、私のことどう思ってる?」

私の演技に気づいたのかみんなは一度止まり、こちらに気づかれないようにくすくすと笑っている。

みんなが笑っていると心が少し軽くなる。

やっぱこうでないと。

宇宙人は楽しく使っていかないと。

「そ、そんなの!だ、大好きに決まってるじゃん…。」

どんどんと尻すぼみに声が小さくなっていく白瀬にこっちも笑いが止まらなくなりそう。笑いを堪えるのも大変なんだなってことに気づいてしまった。

何も知らないで一人で舞い上がってる可哀想なやつ。

「あ、新ちゃんは、どう思ってる?私のこと…」

尻すぼみに小さくなっていく声とキモい質問のせいで笑いが怒りに変わっていく。

もちろんそんな感情を外に出したりはしないが嫌なものは嫌。

「私?私はねー、」

早くこいつのこの熱視線を無くしたくて、後ろにいるみんなをすぐ近くまで呼ぶ。

そしてこいつをさらに勘違いさせるように一歩踏み出す。

今までにない距離感にドキドキしているのか、顔は真っ赤で手足は少し震えている。

「あんたのこと、だーいっきらい!」

そう言った瞬間、白瀬の首にロープが回った。

タイミングなんて決めていないのに、息ぴったりに行動できるだなんて、さすが親友。

いつも私のことをわかってくれているだけある。

その親友がロープを白瀬の首にかけたことをきっかけに、他の人もそれに釣られてロープを引っ張る。

ずっと、白瀬と目が合ったままだった。


 三、気絶させます。


最初はバタバタともがいていた白瀬も脳に酸素が回らなくなったのかいつの間にかぐったりしていた。

口からは涎が垂れ、自分の服を汚している。

言葉にならない呻き声を出している白瀬は獣の様。

目は血走り、上へぐるんと回った。

それをただただ、じーっと見ていた。

人の死に様に興味があったわけじゃない。見ていて気持ちのいいものではないし。

けれど、私は、それを見ても何にも心が動かなかった。

人として何か欠損しているのではないかと勘違いしてしまうほど、心は凪いでいた。

みんなは気絶したかな?死んだ?などを言っていたが、私だけ静かにそれを見ていた。


 四、木にぶら下げましょう。


万が一、白瀬が宇宙人じゃなかった場合、殺されたと知れれば私たちに問題が降りかかってしまう。

それは避けたいとみんなが思っていた。

そこで、白瀬は自殺したと思わせるのが一番いいのではないかと誰かが言った。

みんながそれに対して賛成した。

ネットで調べた首吊り自殺のロープの作り方を真似してみた。

初めてにしてはうまく行った気がする。

もう作ることなんてないから、ここでうまく作れても意味がないけれど。

さあぶら下げるぞって言う時になって、少し、怖気付いてしまった。

そんな私が静かなことに気づいたのは、はやちゃんだった。

「新、何静かになってんの。一番乗り気だったのはあんたじゃん」

その言葉に、喋っていたみんなの話が止まり、一斉に私の方を見た。

みんなの目はいつもと違い、冷たかった。

「え?何でもないよー。さっきまでこいつと話してたから具合悪くなっちゃったのかも」

そう言うとみんなの目が冷たいものからいつものものに戻った。

半笑いでそう言う私に大体の人は「だよねー」とか何とか言ってそれぞれの話に戻っていく。

戻らなかったのは、やっぱりはやちゃんだけ。

「ここで逃げ出したらあんたが殺したって学校の人全員に言いふらすから。もちろんあんたが大好きな拓実にもね」

喉が、閉まる感覚。

息が詰まるような感じ。

けれどここで弱みを見せたら、私がこいつより酷い目に遭う。

それだけは避けたかった。

「そんなわけないじゃん!私たち、仲間なんだから」

そう言うとやっと納得したのかはやちゃんはみんなと話し出した。

私は一つ、ため息をこぼした。


力の入っていない人間ってこんなに重いんだと初めて実感した。

もう、実感したくないとも思ってしまった。

白瀬をようやく木の下に連れていったのはもう日が完全に沈みきった時だった。

「はー、もう疲れた。」

誰かがそうこぼしたが、それを咎める人は誰もいない。

みんな疲れ切っていた。

でも、ここで白瀬に起きられて通報されるとめんどくさい。

確実にそっちの方が後々大変になるに決まっている。

だから、誰もこの作業を止めなかった。

白瀬をぶら下げることに成功した私たちは木の下に椅子を転がしたりしてみて、いかにも自殺しましたな感じを作り上げた。


もう、さっさと帰って寝たくなった。

「疲れたし、帰ろー」

「いやー、世界を綺麗にしちゃったね」

「サイコーの気分」

そんな感想をみんなで述べていると、ラインがなった。

みんながそれぞれスマホを見ると、なったのは私のものだったみたい。

相手は、たっくんだった。

いつもなら疲れが吹き飛んですぐに連絡を返すが、今日の私はそんな気分に慣れなくて、すぐにバッグの中に放り込んだ。

「何だったの?」

「ん?あー、ママ。早く帰ってこいってさ」

何となく、疲れたことを悟られたくなくて嘘をついた。


帰ると相変わらずママはいなかった。

今日も仕事なのだろう。パパも単身赴任中で、この家には私一人。

慣れてしまったが、今日は一人で家にいるのが落ち着かなかった。

私の頭にはたっくんしか思い浮かばなくて、バッグに入れたスマホを探した。


たっくんは幼馴染で隣の家に住んでいる。

私が他の人より容姿が優れていること。たっくんがイケメンなこと。

そのことに気づいてから、私はたっくんと結ばれるんだと思うようになった。

漫画によくある、幼馴染の恋愛。

それこそが私に相応しいと信じてやまなかった。

キラキラとしたものが好きな私は、幼馴染との恋が始まるすべての条件がつまった現状にとても満足している。

他人に羨ましがられることが気持ちよかった。


そういえば、帰るときにたっくんからラインが来ていたっけ。

そう思ってラインを開くと、「母さんがお裾分けしてこいって言ったんだけど新今家いる?」って書いてあった。

もう30分以上前に来ているものだ。

たっくんママのご飯は美味しいから、もらえるならもらいたい。

すぐに電話したけれど、一コール、二コール、三コール、いつもならそこらへんで出てくれるはずなのに出てくれなかった。

今日はもう寝てしまったのだろうかと時計を見るがまだ二十三時。

高校生男子が寝るには少し早い。

しょうがないかとスマホを置き、私は寝る準備を始めた。



次の日、私はいつもより早く学校に向かった。

家にいても何だかとても落ち着かなかった。

スマホを見てみても何にも興味がわかなくて、することがなかった。

こんなにもすることないなら、学校に行ってみた。

教室に着いても落ち着かなくて、早く学校に行ったことがなかったから暇の潰し方がわからない。ずっとソワソワ。もしも私のことを知らない誰かが私のことを見ても、何かがおかしいと勘付いてしまうほどだと思う。


ふと、昨日のことが気になった。

あれはどうなったんだろうか。

思い出したらさらに気になっちゃって、せっかく上履きに履き替えたけれどローファーを履き直した。

気にはなったけれど、見に行くことには乗り気にはなれなくて、ゆっくり歩いて向かう。

あの木が見えるところに着いた瞬間、何か違和感を感じた。


いない。


吊り下がっているはずのあれがない。

胸が、ドキドキとうるさい。息が少し浅くなる。

駆け寄ってみても、何もなかった。

木はロープを掛けていたから少し削れていたいたけれど、そのほかの変化はなかった。

もしかしたら誰かがおろしたのかもしれないけど、そしたら警察とかに通報してテープが貼られているはず。

「白瀬は、宇宙人だったんだ…。」

やっぱり、胸がうるさかった。


朝のHRで担任が言ってきた。

「白瀬さんが昨日の夜から家に帰っていないようです。何か知っている人がいれば、先生かほかの大人の人に教えてください。」

もう、白瀬はもう家に帰ることはない。それなのに懸命に探そうとしている大人たちが滑稽だった。

ちら、と後ろを見てきたはやちゃんと、こっそり笑った。


「白瀬ってやっぱ宇宙人だったんだね」

「話通じなかったからやっぱりねって感じだけど」

担任がいなくなってはやちゃんが私の席に近づいてきた。

「…何の話?」

「あ、たっくん!」

はやちゃんと話していると、別のクラスのたっくんが話しかけてきた。

わざわざ私のところに来てくれるなんて、やっぱり私のこと好きじゃん。

「白瀬さんがいなくなった話のこと」

「それが何で宇宙人になるの?」

「ほら、噂であったじゃん。宇宙人は死体が残らないってやつ!」

「白瀬さんって死んだの?」

ここで、少し止まってしまった。

たっくんは優しい女の子が好きな人。

ここで殺したということを知られて嫌われたくない。

不自然に止まった私に、不思議そうな顔をするたっくんと、察したような顔をするはやちゃん。

「ほら、新って色んな人に人気じゃん?誰かに恨まれてたんじゃないかなーって」

「あーあれ?階段で新との妄想大声で話してたってやつでしょ?」

「そうそう」

何とかはやちゃんが出してくれた助け舟に乗り込んだ。

納得してくれたように見えるたっくんの表情を見て、何とか息を吸った。

たっくんと助けてくれたはやちゃんの顔を見ながら、昨日の怖いはやちゃんは気のせいだったのかもしれないと思い始めた。


「あ、そういえばたっくん私にラインしてくれたでしょ?電話したのに出てくれなかったよね?」

少し怒った感じで言うと、冗談ということをわかってくれたのか笑いながら謝ってくれた。

「新が電話してくれた時に映画見てたから気づかなくてさ」

「もー。しょうがないなー」

「拓実ってば新に弱すぎ」

三人で話していると昨日のことは忘れて楽しく話せた。

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混沌 乾透 @inuitoru

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