後編 騙されないぞ!!
生徒指導室に入ったオレは、中で待ち構えていた人物を見て、やっぱり不良仲間だ、と思った。
そいつは黒髪を七三にして撫で付け、制服をきっちりと着ていて、腕には緑の腕章を付けている。そこには『風紀委員』と書いてあった。
騙されないぞ。その鋭い目付きで相手にメンチ切るんだろ、と思っていると、彼はため息を付く。
「遅い」
「あ? いいじゃねぇか、スマホゲームがいいところだったんだよ」
金髪が言うと、桜井は大袈裟にまたため息をついた。ところで、誰が
「それに、呼んでないヤツらもいるようだが?」
そう言ってオレは桜井に睨まれる。ビクッと肩を震わせると、奴は口の端だけを上げて笑った。あ、何となくバカにされた気がする。
ここは翼を守るためだ、俺だってやる時はやるんだぞ!
「お、オレは翼が心配で……」
「ほう……」
桜井の目が鈍く光った気がした。その鋭い目付きに射すくめられそうになりながらも、オレは翼を庇うように立つ。ま、負けないからな!
「丁度よかった。頭数が足りないんだ、付いてこい」
「お困りですか? 分かりましたぁ」
「ちょ、翼!」
お困りと聞けばすぐに飛びつくさすがイエスマン翼! いや、ここは翼のためにも、断ることが大事だ!
「ダメだ! 翼、危なすぎる!」
「え? ……そうなんですか? 桜井先輩」
翼の質問に、桜井は声を抑えて笑った。不良三人組も、ニヤニヤと笑っている。ほら! やっぱり危険なことをしようとしてるんじゃないか!
「まあ、エモノも扱うし、ヤツらはしつこいからな」
「そうだな。俺らも何だかんだ言って、ヤツらとの戦いは三年目だが、決着がついてねぇ」
坊主頭の言葉にオレは震えた。やっぱり抗争じゃないか。そんなところに頭数が足りないとか言って翼を巻き込もうとするなんて、鬼畜にも程がある!
「大体お前は風紀委員だろっ? そんなことしていいのかよ!?」
「嫌ならいい。川島は借りるぞ」
そう言って桜井は、翼の肩を抱いて教室を出ようとした。……この! 翼を暴力に巻き込むだけじゃ飽き足らず、かわいい翼に馴れ馴れしく触りやがって! 桜井許すまじ。オレも行くしかねぇ!
「待てよ! 先生に言いつけるぞ!」
「……お前、うるせぇ」
先生という言葉に反応したのは刈り上げだった。
「言いたきゃ言えよ。俺たちは俺たちの正義で、ヤツらと戦ってる。外野が騒ぐな」
そう言って、ヤツらは教室を出ていってしまった。
俺は迷う。どうしよう翼が色んな意味で危ない。本当に先生を呼ぼうか? いや、翼を親友のオレが助けないでどうする!?
「くっそー……!」
翼をこんなことに巻き込んだ不良三人組と桜井、許さねぇ! 特に桜井! 表の顔は風紀委員とか言いながら、裏で不良を手下にしてとんでもないことをする悪党だ! 絶対その裏の顔を暴いてやる!
オレは翼を追いかけた。桜井はまだ翼にベタベタ触っている。しかも翼はそんなことをされても笑ってるし。お前、どこまでお人好しなんだよ……。
そしてやってきたのは校舎裏。ここで敵と戦うっていうのか。
すると桜井は、小さな物置から鎌とスコップと、軍手を出してくる。そして、当然のようにオレにも渡してきたのだ。
「へ?」
「お前のエモノだ。ヤツらはこの時期無限に生えてくるからな」
冷たい視線で見下ろしてくる桜井を呆然と見上げると、決戦場所は園芸部の畑だ、とか言って歩いて行ってしまう。翼が「草刈りとか久しぶりですー」となぜか楽しそうだ。
「こ……の……っ」
どいつもこいつも思わせぶりな言動しやがって! とオレは顔が熱くなった。エモノは鎌があるから危険と言えば危険だし、雑草は園芸部にとっては天敵だ。からかわれた、と睨むと桜井が丁度振り返り、ニヤリと笑う。アイツ、絶対確信犯だな!?
「横山一樹……だったよな確か。手伝ってくれるよな?」
しかもなぜかフルネームまで知られている。オレは渡された軍手とスコップを、地面に叩きつけた。
「誰がやるかよ!」
「桜井先輩、僕がやりますから〜」
「そうか、助かる」
相変わらずニコニコと桜井の隣を歩く翼に、桜井は目を細めて笑った。何でそんな優しい顔してんだよ。まさか、本気で翼を狙ってるんじゃないだろうな!?
「おい桜井! 翼に色目使うんじゃねぇ!」
ダンダン! と地面を踏み鳴らしながら、オレは軍手とスコップを拾って奴らの後を追う。
「さっきからうるせぇなお前は。雑草との戦いは真剣勝負だ。気ぃ抜いてると、怪我するぞ」
坊主頭が言う。大体そのナリで草刈りするなんて思わないだろ、普通は。
「あれ? 一樹知らなかった? 先輩方、園芸部だって」
「知らないよ初耳だよっ」
「
「おう、力仕事は任せろ」
翼たちが何か言ってる。オレは騙されないぞ! 特に桜井は翼を狙ってるみたいだし、絶対本性を暴いてやる!
すると、その桜井がまた振り向いた。
「横山、サクサクチョコブラックひと袋でどうだ?」
「な、何でオレの好物知ってんだよ! そんなので絆されると思うなよ! やるけど!」
「そうかそうか。助かる」
クツクツと、喉の奥で笑う桜井。マジで何で俺の好物知ってるんだ? 翼を囲うために、外堀から埋めようってことなのか? やっぱり、こんな腹黒野郎に翼は渡せない! 翼にはもっと、可憐でかわいい女の子の方がお似合いだ!
──そんなこんなで人手が増えたおかげか、園芸部の畑の周りはあっという間に綺麗になった。その間不良三人組と話をしたけれど、どうやら桜井と喧嘩して負けたから、今は舎弟になっているらしい。ほら、やっぱり影のボスだ。
でも、思ったより怖い人たちじゃなくてよかった。やっぱり一番注意しなければいけないのは桜井だ。今も翼と話してて笑ってる。
オレはまた翼を庇うように間に入った。
「翼に手を出すんじゃねぇ」
桜井の眉がピクリと動く。睨んでも翼は渡さないからな。
「……横山、パフェとパンケーキとケーキ、どれがいい?」
「う、うるせぇ! 食べ物で釣ろうったってそうはいかねぇからな! お前の魂胆は見え見えだ!」
そう言うと、なぜか翼が笑った。不良三人組は呆れてるのか、さっさと片付けを始めている。
「これからみんなで、食べに行こうって話してたの。桜井先輩の奢りで」
「って言ってもファミレスだけどな。今ならイチゴフェアやってるし、期間限定メニューもあるだろうから……」
「……いきます……」
何だろう、何かすごく負けた気がする。オレが甘味好きって、桜井は知ってるのか? 翼が喋った? 翼を狙ってるなら、翼の好物食わせればいいだろ……?
──あれ? ひょっとして、餌付けされてるのは、オレ?
そこまで考えて、オレはカッと頭に血が上る。唇を噛み締めたのを見た桜井は、またクツクツと笑う。
「さあ、行こうか」
そう言って桜井が背中を押したのは、翼だ。やっぱり狙ってるのは翼なんだな!? オレのことはからかって遊んでるだけなんだ、この性悪!
「だから、翼から離れろ! この性悪!」
「はっはっは!」
学校の一角、ひっそりとある園芸部の畑のそばで、オレの怒鳴り声と、桜井の高笑いがこだました。
[完]
善意すぎる親友が心配でついていったら影ボスと呼ばれるアイツに何故か俺が捕まった〜俺を餌付けしても懐くと思うなよ! 大竹あやめver. 大竹あやめ @Ayame-Ohtake
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