第88話 引力



......幻覚が見える。


撤去された遊具。山に還された砂の城。ポタッと落ちる鉄棒の水滴。


「......春、くん......?」


目を丸くする彼女の幻覚。ブランコに腰掛け、ギターを肩からさげている。あの日のように。


いや、あの日とは違うか......少し大人びてまた一層綺麗になってる。


星明かりの下、赤みがかっている髪は輝きを増し、幻想的に淡く光るようにみえるその幻影は、僕の脳裏がみせる最期の幸せか。


「ふっ」と、自分のヤバさに鼻で笑ってしまう。めちゃくちゃリアルな幻覚。こんな夜更けに......それも、こんな場所に居るわけが無いだろ、深宙が。


「え、なんで笑われたの......!?」


怪訝そうな表情のその幻。受け答えできるのかよ。すげえな。


「いや、僕がどれだけ深宙が好きで執着してるのかがわかってさ。自分の気持ち悪さにちょっと笑っちゃっただけ......君を笑ったわけじゃないよ」


「......へ」


深宙っぽくないちょっと間の抜けた声と表情。恥ずかしそうに両頬を手で覆う。よくみるとにまにまと口元が緩んでいた。


「べ、別に気持ち悪くなくない?なんでそんなこと言うの?......っていうか、あたしがここに居るの驚かないんだ」


「......?」


「あたしはびっくりしたけど。なんでここに居るの春くん......っていうか、怪我は大丈夫なの」


「......もしかして、深宙なの」


「そうだけど......」


本物だった。......え?うっそ、まじかよ。


「いや、逆になんでこんなところでギター弾いてるの.......!?」


「あー......それはお父さんがね、嫌がるんだよね。あ、ていうか、春くん家に来てくれたでしょ?あの時ごめんね」


深宙が心配で彼女の屋敷に行ったときの事か。彼女のお父さんに門前払いされたんだよな。


「あの時ね、家政婦の陽菜菊ちゃんがこっそり教えてくれたんだ。春くんが来てくれたって。......でも、お父さんに携帯も管理されてて、連絡も取れなくてさ。ごめん、謝るのも遅くなっちゃって」


「そう、なんだ......いや、こっちこそごめん」


「なんで春くんが謝るの?」


「いや、僕がもっと気をつけていれば.......深宙をあんな怖い目に合わせることも無かったのに」


深宙は首を横に振る。違うよ、と呟きながら。


「あの日の事は春くんのせいじゃない。だから謝られても困るよ。ていうか、あたし......がんばって助けを呼びに行ったんだけど、遅くなっちゃって......ごめん。酷い怪我してたんだよね。陽菜菊ちゃんに聞いた」


「ううん。ありがとう。それは浅葱先輩と青葉先輩に聞いた。二人を呼んできてくれなかったら、僕はもっと酷いことになってた......」


そう言いながら見上げた星空。穏やかに流れていく星々。長いこと暗くモノトーンだった景色に色がおとされ、久しぶりに視界がクリアに感じた。


(......深宙に嫌われたわけじゃ無かったのか)


「そういやいつも一人でここで練習してるの?危なくないか?」


「あ、大丈夫。陽菜菊ちゃんがすぐそこで車で待っててくれてるから」


「......ボディーガードか」


「そう。それと、見張りかな」


「見張り......」


「お父さんあの日からあたしの事に関して凄く厳しくなっちゃって。でもこうして陽菜菊ちゃんにお願いしてちょこちょこ外で練習してるってわけ」


「部屋でも弾けないのか......厳しいな」


「うん。あ、でもね、お父さんもうすぐで海外のお仕事に行くらしいんだよね。そうなったら自由に練習できるようになる」


「なるほど......そっか。良かった。ギターがんばってたもんね」


「うん!」


胸の奥が満たされる。彼女の側にいると、不思議と気持ちが明るくなる。


「それでね、お父さんが海外に行って春くんに会いに行けるようになってから本当は伝えようと思ってたんだけど.......」


「ん?」


「また、二人で会えないかな。あたしのギターの練習、手伝って欲しい」


「......僕が?」


「他に誰がいるの?......もしかして、やっぱり嫌われちゃったかな、あたし」


「え」


「......だって、酷いやつじゃない。ずっと長い間、謝りもしないし、お礼もしない......助けてもらったのに」


「それはお父さんの事があったからでしょ。不安にはなったけど、嫌いになんてなってない」


ぽん、と頭を撫でる。


「あ」


刹那にやるようについ癖で撫でてしまった。


「ご、ごめん」


そう手をよけようとすると、彼女はその手を掴んだ。


「ありがとう」


顔をあげずにそう言った深宙。座る彼女の膝に落ちた涙に、不安だったのは僕だけじゃないことを理解した。


そして、彼女との練習の日々が始まり今に至る。








――コトン、と空のグラスをテーブルに置く。


「......なんで忘れていたんだろう」


あの日の想いを。深宙が全てだった、僕のこの気持ちを......。


「生きている限り、大切な気持ちも、記憶も時間の中に埋もれていくもんすよ。ぐすっ」


「え、なんで泣いて......」


いつの間にか注文していた食べかけの苺パフェ。スプーンを左手に持ちながら右手の袖で涙を拭う紫音さん。


「途中、話が予想以上に重くてびびったけど......春っちの想いは純愛なんやなあって、泣けたっす。ずびまぜん」


「......純愛」


窓の外、空を見上げれば深宙。雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうな色合いだった。


「まじで良い物語きけたっす。ありがとう、春っち」


頷く僕。けれど、思考はすでに別の事に向かっていた。


(そういえば、深宙のお父さん......もうすぐ帰ってくるんじゃなかったか)





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【あとがき】


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陰キャでイジメられていた僕が「そろそろバンドでも組もう」と可愛い幼なじみに頼まれ、バンドのボーカルになった件。 カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画 @kamito1

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