うこんこう考 🌷

上月くるを

うこんこう考 🌷




 小アジア原産のユリ科の球根植物、ヨーロッパで古くから品種改良がおこなわれ、 赤、白、黄色、桃色、黒紫など豊富な色彩がある……春の歳時記に説明されている。


 傍題は鬱金香うこんこうと、これまた思いきり古風な和名がつけられているが、あのあっけらかんと朗らかなチューリップに、敢えて捻った名前をつけた人のセンスに共鳴する。


 


      🌐




 どういうものか、あのシンプルに過ぎる形状を見ると、なんだか恥ずかしくなる。

 だれもかれも「応援よろしくお願いします!!」しか言えないアスリートみたいで。


 かといって、たまに見かける、八重や縮れた品種のチューリップはちょっと……。

 桜を筆頭に、花は一重こそよし、ついでに人の瞼も(自身は二重)と思っている。


 

 

      🏡




 時代の大波に、ざんぶと洗われて事業を縮小したころ、なぜか花壇に入れこんだ。

 少なくなったスタッフを励まし、がらんと広い駐車場に季節の花ばなを咲かせた。

 

 ある年の春、楽しみにしていたチューリップが黄緑の芽をにょきにょきと出した。

 前年の晩秋にホームセンターで購入した球根が、たくましく根づいてくれたのだ。


 けれど、何日かして蕾がいっせいに花を開いたところを見て、あっと息をのんだ。

 なんと、若い男性スタッフが求めて来たのは、ことごとく地味な黒紫だったのだ。


 

 

      🏔️


 


 そのときは、正直、彼の色彩センスを疑ったが、いまなら分かるような気がする。

 先行きの見通しも立たない事業に、濁りや翳りのない陽気な色はふさわしくない。



  チューリップ喜びだけを持つてゐる   細見綾子

  赤は黄に黄は赤にゆれチューリップ   嶋田一歩

  チューリップ花びら外れかけてをり   波多野爽波

  遠山にまだ雪のありチューリップ    高田風人子


 

 俳人たちがこぞって詠んだのは、赤や白、黄色、桃色のチューリップだったろう。

 黒紫をイメージさせる傍題の鬱金香を季語にした例句、歳時記には見当たらない。




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うこんこう考 🌷 上月くるを @kurutan

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