第154話 水
「ちょいなっ! へやっ!」
相変わらず不思議な掛け声と共に、ジゼルが二刀を振るう。まだ二刀を十全に操れるほど筋力がないのだろう。剣に振り回されている印象は拭えないが、大部分はものになっているあたり、ジゼルのギフトである【剣王】の凄まじさが分かる。普通はこんなに早く二刀を扱えるようにはならない。
ジゼルの操る大小の二本の刀は、それぞれ宝具だ。見たところ、ジゼルはまだ宝具の力を開放していないようだな。まだ宝具の力を使うほど追い詰められていないということだろう。頼もしいことだ。
「GA……」
ジゼルの二刀を受けたオークは、力ない断末魔を零し、白い煙となって消える。これで戦闘終了だな。
「皆、よくやった」
オレが声をかけると、パーティメンバーたちの肩から力が抜けたように見えた。
そして、オレはドロップアイテムの回収に動く。今回はオークを六体倒して肉塊が二つだった。
レベル4ダンジョン『オーク砦』に潜ったオレたちは、幾度も戦闘を繰り広げ、だいぶダンジョンの攻略が進んできた。とは言っても、全体の行程で見れば十分の一程度だがな。それでも、たとえ少しずつだろうと、着実に進んでいるのは確かだ。
勘違いする奴も居るが、ダンジョンの攻略は、競争じゃない。己との戦いだ。
「そろそろ休憩するか」
だから適度に休憩を取り、着実に進む必要がある。
「イザベル、どこかに休憩できる所はあったか?」
「そうね……」
イザベルがまだ白い羊皮紙を広げて眉を寄せる。
「少し戻ったところに部屋があったわ。そこで休みましょう」
「了解だ。イザベルは案内の指示を」
「分かったわ」
ダンジョンの中に安全な場所など無い。だから、比較的安全な場所を確保し、体を休めるのだ。
今回のように部屋があるのはラッキーな部類だな。部屋にこもれば、ドアを警戒するだけで済む。
「こっちよ」
オレたちは、イザベルの指示に従って、来た道を戻る。先頭はクロエ、そしてエレオノールが続き、ジゼル、イザベル、リディ、オレの隊列だ。バックアタックを警戒する意味でも、オレが遠距離攻撃をできる点も加味したいつもの隊列だ。
部屋のドアに到達すると、クロエがさっそくドアにくっつき、ドアの向こうの様子を探る。部屋の中にモンスターが湧いてる可能性もあるからな。警戒は大事だ。
しばらくすると、クロエはこちらに頷く。どうやら、敵の気配は無いらしい。とはいえ、クロエが察知できなかった可能性もあるので警戒は解かない。
そのことをクロエも分かっているのだろう。慎重にドアを開けていく。
結局、部屋の中は、もぬけの殻だった。ラッキーだったな。
「うひー」
部屋に入ると、さっそくとばかりにジゼルが床に座ると足を延ばした。
「休憩してていいぞ。オレがドアを警戒しておく」
「そう」
「ではお言葉に甘えて」
「んっ……」
「…………」
オレが警戒役を買って出ると、エレオノールたちもジゼルに続くように床に腰を下ろして思い思いに休憩し始めた。
皆、慣らしてきたとはいえ新しい装備だからな。疲れるのもそれだけ早いのかもしれないな。
冒険者には、それぞれ愛用の装備というがあるものだ。それだけ慣れ親しんだ装備を重宝する傾向が強いということでもある。
普通は、金を稼いで少しずつ装備を更新していくものだからな。今のクロエたちみたいに一気に全身の装備を変える場合は稀だろう。
とはいえ、パーティメンバーの本気度が分からなかったためそこそこの装備を買った前回とは違い、今回はハイエンドと称してもいい装備群だ。いい装備や宝具に早くから慣れることができるのはプラスだろう。今は慣れなくても、使っていればその内に馴染む。
それに、宝具の扱いに慣れるのも利点だな。クロエたちに与えたのは、いずれも強大な力を秘めた宝具だ。切り札の切りどころを見極めるのも大切な資質だ。
「茶を沸かすわけにはいかないが、水は飲んでおけよ。この先、いつ休憩できるか分からんからな」
オレは収納空間から水差しと人数分のコップを取り出すと、床に置いた。すると、さっそくとばかりにジゼルが水差しとコップを手に取る。
そして、コップに人数分の水を注ぐと、水をガブガブ飲み始めた。明らかに水差しの体積以上の水がコップに注がれたが、それはこの水差しが、永遠に水が枯れない宝具の水差しだからだ。
“永遠たる水脈”。これが一つあるだけで、水問題が一気に解決する便利な宝具だ。
宝具といっても、なにも武器や防具ばかりではない。むしろ、武具は珍しい部類で、宝具とは意外と生活雑貨が多かったりする。屋敷のシャワーなんかがいい例だな。
「冷えててうまー」
「お茶がないのは寂しいですが、ダンジョンの中で飲むお水も格別に美味しいですね」
前衛陣は、するすると水を飲んでいく。前衛陣は武器を振るからな。武器とは重量物だ。前衛陣は、重りをもってウエイトトレーニングしているようなものだ。そりゃ汗もかくし、水も欲しくなるだろう。
「んっ……」
「お?」
ドアの見張りをしていると、いつの間にかリディが近くに居た。リディは水の入ったコップをオレに差し出している。オレも水を飲めというのだろう。
「ありがとな」
「んー……」
コップを受け取り、リディの頭を撫でると、リディが気持ちよさそうに声を漏らす。まるで小動物のようだ。最初はどうなることかと思ったが、リディはオレに懐きつつあるな。いい傾向だ。
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こんにちは(=゚ω゚)ノ
作者のくーねるでぶるです。
お読みいただきありがとうございます。
悲しいお知らせが一点あります。
ついに、ストックが切れてしまいました。
新作について思案を固めている手前、
これからは毎日投稿とはいかないかもしれません。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、
本作の【改稿版】も投稿しております。
kakuyomu.jp/works/16817330656887068656
こちらは完結まで書いてありますので、エタる心配はありません。
あのキャラたちが生きていたり、いろいろ改変があります。
よろしければ、こちらも読んでいただけると幸いです。
パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~ くーねるでぶる(戒め) @ieis
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