4月4日(火) 対広島 勝利(5-4)
9回表。2OUT2塁の場面でバッターボックスに大山が向かう。
「きっと敬遠やで。佐藤勝負か……」
「それならあかんな。三振しか思い浮かばへん」
「でも、フォアボールだったら、満塁で森下だよな。それなら……」
「いや……自分がミスしてこんなことになっとることはわかっとるやろうから、ワンバン振りまくるぞ」
テレビを凝視しながら、この店に集う客たちは各々の意見をぶつけ合っていた。そのほとんどが初対面の相手だというのに、まるで長年の友のようだ。
「え……?」
「うそだろ?マジで、大山で勝負してくれるの?」
テレビの画面に大山が打席に入り、カープの守護神・栗林が勝負を挑む。その信じられない光景にざわめきが起こり……快音が響くとみんな大喜びした。
「新井、ありがとう!大山と勝負してくれて」
誰かが言った。だが、皆同じ思いだ。この場面で、佐藤よりも大山と勝負する選択をするとは、中々できることではない。余程の大物監督なのか、それとも……。
そして、そのあとの佐藤は案の定、あっさりサードファールフライに打ち取られて、新井の判断が間違っていたことを証明した。場面は9回裏へと移る。
「まじいな……」
「1OUT1塁とはいえ、ここで菊池は辛いな」
1OUTから出したランナーに代走が告げられて、迎えるのは今日キーマンになっている菊池だ。さらにいえば、次の野間もその次の秋山も、不気味だ……。
「セフティバント……サード前あたりにあり得そうだな。一度決まっているだけに……」
「いや、そう思わせて、表の攻撃と同じようにエンドランじゃないか?決まれば、飛んだ場所によっては長駆ホームイン、一打サヨナラの場面になるかもしれないし……」
表の賑わいがウソのように、ピッチャー湯浅がセットに入ると、店はシーンとなって成り行きを見守る。すると……
「えっ!?」
「嘘だろ……」
突然、ランナーが飛び出してタッチアウト。2OUTランナーなしとなり、菊池もやけくそみたいに三振に終わってゲームセット。開幕4連勝を遂げた。
「よっしゃあっ!」
「とらほー!」
「あかん!アレしてしまうわ!」
客たちは喜びを爆発させて、隣の人と抱き合うわ、ハイタッチするわ、大いに盛り上がった。そのほとんどが今日ここで初めて会った相手にも関わらずに。
「お兄さんも乾杯!」
「ああ、乾杯」
カウンター席に座っていると、陽気なお姉さんがグラスを掲げてきたので、コツンとあてて乾杯した。相変わらず、にぎやかだなと思っていると、ようやく『アレ』が大将より差し出された。なにやら、揚げ物のように見えるが……
「『栗入りちくわのマキマキカツ』ですよ。二人のクリをやっつけましたからね」
なるほど、九里と栗林を意味しているのか。二つだけ皿にのっているのもそういうことなんだろうと口に放り込む。広島には去年散々やられていただけに、とても美味しくいただいた。
居酒屋「虎の涙」は、今日も営業中♪ 冬華 @tho-ka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。居酒屋「虎の涙」は、今日も営業中♪の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます