きゅるーん♪天綺羅燦璃だよん!
忠一郎は、なんとか説明した。事故に遭い、気がついたらココに居た。身体は元の物と全く異なる形をしている。山田花子の部屋のパソコンの中の2Dモデルキャラクターに、転生したみたいだった。
「信じられない……」
「でも、現にそうだし。」
「私のサンリちゃん……」
「それに関しては、本当に申し訳ない。」
彼女の生み出したキャラクターに、得体の知れない男が乗り移ったのだから当然、気味が悪いのだから。
「それにしても、この姿は全て自作?」
「へへーん、そうです!イラストからモーションキャプチャーまで独学アンド自作でーす!」
「すげぇ……」
「まぁ、公開はしてないですけど……」
「そうなの?勿体無いな〜」
「そう思います?本当はVチューバーしたいんですけどね……」
「やれば良いじゃん!技術系でも行けそうだし。」
「でも、人の目が恐くて……」
そう言って、花子は俯いた。雰囲気的に、いろいろ有ったのだろう。忠一郎は、すぐに話題を変えた。
「……そういえば、この体の子はなんて言うんだ?」
「その子はですね!」
花子は目を輝かせながら、説明を始めた。
「生まれも育ちも太陽です。姓は
「お、おぉう。」
「挨拶は、『きゅるーん♪』で、サンリって呼んで欲しいな!」
「おk……」
あまりの花子の勢いに、忠一郎は少し引いてしまった。が、熱意には感心していた。
「そんなに決まってるなら、やれば良いじゃん。」
「でも……」
「やっぱり、怖い?」
「………………」
コクリと無言で頷く花子に、忠一郎は提案をした。
その言葉に、花子は驚きしかなかった。
「えええぇぇぇーーー!!!」
「1人じゃダメなら、一緒にやろうぜぇ〜」
「でも……」
「なんの為に生まれ変わって、何をして生きるのか。応えられないなんて、そんなの嫌だよ。」
「………………」
「どうせやる事も無いし、ココで何かを成すことが運命だと思うのよ!」
「一緒に、やろう!」
「でもー…………」
「じゃないと、この天綺羅燦璃の体で変な事するぞー」
「私のサンリちゃんで、遊ばないで!」
「やる?」
「………………ゃぅ……」
「へ?」
「やーる!やれば良いんでしょ!!!」
「じゃあ……」
忠一郎は、画面に手をつける。花子も同じように画面に手をつけた。
「契約。」
「完了!」
「じゃあ、まずは何するの?」
「そうだな〜、とりあえず配信サイトに登録する所からか?」
Vチューバーとして始める前の土台を、探す事になった。といっても、大手配信サイトで始めるに越したことは無い。
「じゃあ……ココだね!」
「お!」
花子がタイピング音とクリック音を部屋に響かせると、とあるサイトに行き着いた。忠一郎のいる画面を小さくして、開いた配信サイトの画面を大きくした。花子から見れば右下に小さく、サンリちゃんこと忠一郎が映る。白い空間に居る忠一郎の手元に、花子が映したサイトが現れた。
「なになに、【バーチャル配信サイト:どライブがう】?」
「そう!みんなココでやってるよ?」
「へー」
「知らないの???」
「聞いたことも無い。」
「じゃあ、忠一郎さんは……」
「たぶん……」
「おじさんなんだね……」
「って、おいィィィィ!!」
まさかの発言に、忠一郎はツッコミを入れた。
「違うの?」
「違う違う。全く違う!」
「じゃあなに?」
「知らないサイトだから、たぶん異世界転生したっぽいんだよ。」
「ええー!」
「さっきは転生だけで超速理解してくれたのに、なんで……」
「Vチューバー知ってるのに、【どライブがう】知らないから。」
「な、なるほど。」
元の世界とはかなり似ているが、細かいところは違うようだ。本当に異世界転生していたとは、忠一郎でも思っていなかった。
「このサイトは、凄いのか?」
「勿の論!世界中のバーチャルチューバーが、集まってるの!!!」
「バーチャルチューバー?」
「そう、略してVチューバー。チューバーって言うのが、ブラウン管の人って意味で、配信者って感じ。」
「なるほど……」
元の世界とは近いようで違う。そんな状況では有ったが、無闇矢鱈と元の居た世界の情報を流すのは不味いと思い、細かいことは話さなかった。
「登録は……有った!」
「なになに〜」
よくある利用規約を読みつつ、必要事項を入力していった。そしてとうとう、登録が完了した。
「出来たー!」
「ようやく終わった。」
「スタートラインに、立ったね〜」
「いや、全然だろ?」
「そうなの!」
「そうそう……」
忠一郎は、始める前にする事の幾つかを説明した。
「いいか、まずは機材から準備しないと。」
「確かにー!パソコンは、大丈夫かな?」
「オレも専門外だが、顔のモーションをキャプチャーしてるから大丈夫だろう。」
「ヨシヨシ。」
「まずは、マイクかな?」
「マイク?」
「そっ。花子ちゃんのマイクは音質があんまり良くないからな〜」
「あー、たぶんイヤホンの内臓マイクだから。」
「ちゃんとしたの買おう。人と話す時に、困らない???」
「…………人と……話さないので………………」
落ち込み黙る花子に、忠一郎は話を進めた。
「と、とりあえずネットで買おう。クチコミ見て安くて良いやつ!」
「…………はい………………」
「パソコンの録画機能を使えば、動画は作れるだろうし。」
「え!?!?」
「ウルサっ!なになに???」
「生放送じゃ無いんですか!」
「違うよ?」
「みんな生放送が、ほとんどですよ?スローパッションチャット、スパチャや投げ銭とか貰えませんよ???」
「いや良いんだ。」
この世界では《情熱を投げる言葉=スローパッションチャット=スパチャ》なのかと驚きつつ、花子に戦略を説明し始めた。
「
「そんな……」
「これは別に、天綺羅燦璃に魅力が無いからじゃない。みんな既に好きなVチューバーが居るからだ。」
「たしかに、推しとか居ますよね。」
「面白いかどうかも分からない得体の知れない配信者より、既に見慣れてて絶対に面白い配信者の方が良いだろ?」
「ドドドのド正論……」
「だから、まずは動画だね。短くても良いし、短いからこそ見てもらえそうだ。」
「なるほど〜、いきなり知らない人の長時間の録画はキツいですもんね。」
花子はいつのまにか、メモを取りながら忠一郎の話を聞いていた。
「最初は収益化まで遠いし、すぐに生放送は出来ないからね。」
「出来る事からコツコツと、ですね!」
「そうそう!」
「頑張るぞー!」
花子が動画投稿に気合を入れる中、忠一郎には別の思惑が有った。いきなり生放送しても、見てくれる人なんて居ない。同時接続者数0人が、関の山。動画なら人数では無く回数な上、全て見てなくてもカウントさせる可能性が有るからだ。よくない結果が続けば、どんなにメンタルが強い人でも折れてしまう。継続する事こそが大事なのは、元の世界で黎明期から見てきた経験が活きているのだろう。
「まずは週一投稿を目指そう。決まった曜日、決まった時間にするのが、鉄則だね。」
「ふむふむ……」
「内容は、なんでもいい。」
「なんでも、ですか?」
「よっぽどの強みが無い限りは、手広くやるに限る。どんなに良い物でも知られて無ければ、存在しないのと同じ。良し悪しの判断をしてもらう前に、知名度を上げないと。」
「なっ、なんでもやります!」
「伸びた物を、手を変え品を変えやるのも良いかも?」
「マンネリ防止と……」
いろいろと忠一郎が説明した所で、花子に【どライブがう】について聞いた。
「そういえば、動画の投稿の形式って何が有るの?」
「【どライブがう】だと、2種類ですかね?」
「ほうほう……」
「1つは普通の動画ですね。」
「よくあるヤツか。」
「もう1つは最近できた『ちょっと動画』ですね?」
「ショート???」
「ちょっとです、『ちょっと動画』!」
元いた世界の動画と似た言葉に、忠一郎は引っかかった。
「それは、どんな感じ???」
「1分以内の動画限定で、ランダムに流れてくるんです!」
「良いね!」
「コレで伸びてる人も居ますし、再生数とかも多いみたいです。」
「老若男女に流れるなら、知名度向上には向いてるかも。」
「ですね!切り抜き動画とかも多く流れるので、作った動画の『ちょっと動画』バージョンとか作るのもアリー!」
「ナイスアイデア!!!」
二人は画面越しに、ハイタッチをした。
「よーし、動画撮影、頑張るぞー!」
「おー!」
「で?」
「うん?」
「何を撮るんですか???」
「いや、そこは自己紹介動画だろ……」
「じゃあ、やりますか!」
「最初の挨拶は……」
花子は右手の人差し指と中指を立ててピースサインを作ると、手の甲を外に向けて右目の上下に指をくっつけた。
「きゅるーん♪天綺羅燦璃だよん!」
転生したらVチューバーの【ガワ】だった。 @底辺陰キャの【魂】女子を有名配信者する為プロデュースします! 1輝 @KAZUKI_Nola_KKYM
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