転生したらVチューバーの【ガワ】だった。 @底辺陰キャの【魂】女子を有名配信者する為プロデュースします!

1輝

有るべきはずのモノが無く、無いはずの物が有る。

 僕は社会人1年目、内田忠一郎うちだちゅういちろう。同期で同僚の中島と出張に行き、そこで科学者たちの怪しげな実験現場を目撃した。実験の見学に夢中で、背後から近づいてくるブレーキの壊れたトラックに気がつかなかった。僕はその無人トラックに轢き殺され、目が覚めたら……


「……ぅん?ココは???」


瞳に映るのは、見知らぬ天井だった。天井どころか、部屋も見た事がない。そもそも、部屋と呼べるかどうかも怪しい空間だった。何も無い、傍目には真っ白い空間の中にポツンと、忠一郎は立っていた。


「誰か居ませんかー?」


呼びかけても、何も無い。叫び声は、奥にそのまま吸い込まれていった。天井を見上げ、周囲を見渡し、床を見る。


「ナンジャコリャー!」


その瞬間、銃で撃たれて血に染まった両手を見たかの様に、驚きの叫び声を挙げた。床を見た時に、自身の身体が見えたのだ。本来であれば黒いスーツが見えるはず。しかしそこには、が見えていた。急いで自分の全身を見渡し、まさぐった。両手には白い長手袋、ノースリーブのピンクのワンピース。黒いニーソックスにオレンジの靴。髪も長くなり、茶色に染まっていた。胸元には、大きなハートが付いていた。


「なんでこんな服に!?」


明らかに、日曜日の朝にテレビで放送されている番組の様な格好である。他人に見られたら不味いと思い、脱ごうとしても脱げない。汗でひっついている訳でも、キツキツのミチミチな、ピッタリよりも小さいサイズを着せられている訳でも無い。肉体の一部、産まれた時から存在する物のように外れないのだ。


「なんでだよ〜」


服の胸元をグッと引っ張ろうと掴んだ時に、違和感が有った。何故なら、胸に肉を感じたからだ。痩せ型の男には無い、胸の丸み。パッドか布が詰まっていると思って気にしていなかったが、明らかに自分の肉体の一部で有る。その場で試しに数度、ジャンプしてみた。ブルンブルンと揺れる度、皮膚が引っ張られるのが分かった。


「えっ……整形…………されてる?………………」


胸部の大変形に呆然とする中、1つの疑問が浮かぶ。女性好みの服、揺れを感じない下半身、無いはずの有る胸。いくつかの条件が、恐ろしい予想を弾き出す。恐る恐る右手をスカートの中に入れ、自分の内腿からゆっくりと上に撫で上げる。


「……頼む…………頼むから………………」


そのまま手は、反対の足の内腿に到達した。衝撃の現実に、一言、声を漏らすのが精一杯だった。


「……………………無い…………………………………………」


 有るべきはずのモノが無く、無いはずの物が有る。そんな事態に打ちひしがれ、忠一郎は床に寝そべる。自分がトラックに轢かれる前までの事は覚えているが、その後のことは何も覚えていない。何がなんやら、徹頭徹尾、一から十までチンプンカンプン、全くもって意味不明。そんな現実に絶望するしかない。そもそも現実なのかすら、分からない。考えたくてもかんがえられない。考えたところで意味が無い状態に、陥った。置物と人間の中間の生命体として、ずっと何も無い白い空間に横たわった。 そして、考えようと思っても考えられないないので、そのうち、忠一郎は考えるのをやめた。


――――――――――――――――――――


「サンリちゃーん、おはよう〜」


死んだ魚の目をして口から涎を垂れ流す忠一郎の耳に、突如として女性の声が聞こえてきた。どこからともなく聞こえる声に驚いていると、白い空間に画面が浮かび上がった。創作物でよく見る様な、空中に映像が映る現象が目の前で起こった。その画面には、眼鏡をかけたボサボサの寝癖の有る人物が居た。性別は分からないが、先程の声からして女性なのだろう。忠一郎が声をかけようとする前に、女性は何かを操作し出した。カチカチ音とカタカタ音が交互に鳴り響き、ブツブツブツブツ聞き取れない程の独り言が聞こえてくる。急に無音が辺りを占めると、女性は右手の人差し指を立てて天に掲げ、セリフと共に振り下ろした。


「システム、オールグリーン!天綺羅燦璃あまきらさんり、起動!!!」


その瞬間、忠一郎は宙に浮かぶ画面の前に直立した。まるでリセットボタンを押されて、初期の位置に強制的に戻される様な感覚だった。画面の向こうの女性の顔の動きに合わせて、忠一郎の顔も動いてしまう。彼女が片目を閉じると、片目が閉じてしまう。彼女が口を開けば、口が開いてしまう。カチッとボタンが押されると、何故か笑顔になった。別のボタンが押されると、泣いてしまう。さらに別のボタンを押されると、身体が勝手に動き出してポーズを決めた。好き勝手に動かされる身体を止めようとしても止まらず、声すら出せなかった。洗脳かコントローラーか操り人形か、好き勝手に動かされる。


 「はぁ……楽しい…………」

しばらくすると満足したのか、宙に浮くディスプレイの画面の女性が上を見上げた。その瞬間、身体の自由が効き出したので、忠一郎は声をかけた。

「おい!」

「!?!?!?!?」

「もしもーし!!!」

「えっ、えっっ!えええぇぇぇッッッ!!!」

画面の向こうの部屋の中を、驚きの声を上げながらウロウロする女性に忠一郎は手を振った。両腕を大きく広げてアピールするが、気づいてもらえない。

「ココ!ココだよ!!!」

「誰!?」

「おーいー!」

「怖い怖い怖い…………遂に幻聴が聞こえる様に…………」

「あの〜」

女性は急いで画面の前に来ると、イヤホンを付け直して画面に顔を向けた。忠一郎はようやく気づいてもらえると思ったが、再び身体の自由を奪われた。

「あ、い、う、え、お!」

「あ、い、う、え、お!」

彼女の喋る口の動きに変動して、忠一郎も口を開く。ウインクすると、一緒にウインクする。両目を閉じると、両目が閉じてしまう。困った状況では有ったが、思考する事は出来たので何とかアイデアを捻り出した。


「ふぅ……やっぱり気のせいだったかしら。」

またも、女性が上を向いた瞬間に、拘束が解けた。そこで忠一郎は声をかける。

「動くな!」

「…!?」

女性は上を向いたまま、微動だにしない。そのまま忠一郎は、質問を続けた。

「ココは何処だ?」

「ドコって、私の部屋ですけど……」

「お前の目的はなんだ?」

「もっ、目的!?」

「そうだ。オレの身体を改造しやがって……」

「改造?……私はただ2Dモデルで遊んでただけなんですけど…………」

「2Dモデル???」

「そうですー!Vチューバーみたいなものです!!!」

彼女の言葉で、忠一郎はいろいろと分かって気がした。キチンと会話をする為に、彼女に指示を出した。

「じゃあ……カメラ有るだろ?」

「はいぃ、パソコンの上に…………」

「じゃあ、それのレンズを隠すか電源を切れ。」

「ええぇーと、うーんと、コレかな?」

画面によれよれの襟と胸元が映ったので、忠一郎は顔を背けた。ガチャガチャと機械をイジる音が止まると、完了のお知らせが聞こえてきた。

「コレで、ヨシ!」

「終わった?」

「大丈夫だと思います!」

「ふー……」

忠一郎が画面を見ると、女性は上を向いていた。おそらく、指示を忠実に守っているのだろう。

「あー、もう上を向かなくて大丈夫です。」

「分かりました!」

画面越しに目が合うが、勝手に身体は動かなかった。女性は気になる事を、質問してきた。

「ところで、さっきから話してる貴方は誰なんですか?」

「オレは、内田忠一郎って言います。」

「私は……山田…………花子……です………………」

「偽名?」

「本名ですー!そうやって虐められるから……」

「ほっ、ホラ!怪しい相手に、いきなり本名とか言わないし!」

「確かに……」

画面の向こうの女性、山田花子に忠一郎は話を聞いた。

「今、目の前にパソコンしか無い?」

「無いです。」

「うーん……」

「どうかしました???」

「いいですか、落ち着いて見てください。」

「?……はい。」

忠一郎は、画面の前で自由自在に動き回った。両手両足を縦横無尽に動き散らかし、表情もコロコロと変えた。その様子を見て、花子は衝撃を受けた。

「ハッキングされた!!!!!!」

「違う違う。」

「けっ、警察!」

「待て待て。」

「とにかく、電源を切らなきゃ!」

「ストップストップ、死ぬ死ぬ!!!」

忠一郎は自分の居る場所・置かれた状況に察しがついていたので、シャットダウンされるのは危ないと感じていた。そこで、自分の心臓を親指で指し示すと、宣言した。

「オレオレ、ココに居るのが忠一郎なんだ!」

「……………………」

「何がなんだか分からんが、気がついたらココに居たんだ!!」

「そんな………………」

「おそらく、転生したっぽい。」

「なるほど。」

「超速理解、助かる。」

「今時、どんな転生物でも有るし。」

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