第20話 ノードへの帰還

 二十二世紀に各地域で核戦争が多発し、極東・中東・南アジア・ヨーロッパ・北アジアの各国が滅んだ後、生き残ったアメリカと中国の二大国が世界を支配していたが、それも中国の独裁者の狂気で中国から大量の核ミサイルが全米に向けて発射され、アメリカも大量の核ミサイルを中国に撃ち込むことになった。そして両国民は核の火に覆われて死滅した。生き残った人々は高濃度放射能を避けて北の高緯度地域に逃れた。そして数百年後、死滅を免れたのは北極海の沿岸地域、そしてアパラチア山脈に造られたNASF(北米避難施設)に避難した人々だった。


 NASFはおそらく人類最大最強の核シェルター施設で、地域核戦争が多発し各国が次々と滅んでいく中、アメリカ合衆国大統領をはじめとする政府関係者や技術者とその家族が1万人以上の規模で居住し、核被害に対して万全の準備を進めていた。そして終に中国との最終核戦争が勃発し全米で小さな核シェルターが破壊されていく中、生き残りに成功した。その後、地表の放射能が薄れた後も地表の熱暑を避け、三百年に渡って子孫たちはこの地下で生存を続けてきた。現在の居住者は千人程度だと聞いている。


 NASFでは、アメリカ合衆国大統領の死後も大統領制は続けられ、人々は四年ごとのNASF大統領選挙で指導者を選び、民主主義を守ってきた。現在の大統領は君たちに対応したコナーズという男だ。NASFの電力は風力発電・太陽光発電装置でつくられている。危険性の高い原発は使用していない。中央指令室のコンピューターで電力・食料生産配給などを管理している。核戦争前はNASFが全米二百の核ミサイル格納施設を管理していたが、現在核ミサイルは二か所に十数発しか残っていない。


 NASFの最大の懸念事項は人口減少であり、そのため毎年のように北米各地に捜索隊を出し生き残った人々を捜し、NASFへの移住を勧めてきた。約二百年前にサイバー都市にも使節を送ったが、そのころのサイバー都市は人口過多で問題が起きており、NASFも交流を断られたという記録があった。今回コロナ発生という不幸な事態が起こったが、それをきっかけにノードの人達がNASFを訪ねてくれたのは喜ぶべきことだ。とNASFの代表者は語った。

 出発準備の間、食事球形の後、NASFの医療技術者とコンピューター技術者が現れ、話し合いの結果、ノードの調査隊員12名のうち希望した半数の隊員が残留し、NASFの9名の技術者がノードに出発する事になった。その後一同は、別の通路に向かい電動ベルトとエレベーターを乗り継ぎ大小のモービルが並ぶ倉庫に到着した。

ノードに出発する15名は空調スーツを着てバス型のタイヤが大きいモービルに乗り込んだ。モービルの貨物室には五百人分のコロナ治療薬、コンピューター機材が積み込まれている。バス型モービルは、NASFの代表者と6名の残留隊員に見送られ、倉庫の一角の開かれた扉から熱暑の続く地表へと出発した。


 バス型モービルは、豪雨とぬかるみの大地を北へ走行し、2日後オンタリオ湖の南岸に係留した船が見える地点に到達した。そこから船に乗り込んだ隊員達はセントローレンス川を下り、川の河口から波の荒れた北大西洋を海流に乗って北上する帰路に就いた。グリーンランドへ帰る途中の船内で、NASFの技術者と調査隊隊員の15人は、やっと打ち解けた会話が出来るようになった。

「君達のノードは人口が多く活気のある都市らしい。君達がNASFに贈ったパイナップルとバナナは美味しそうだった。食べ損ねて残念だ。ノードに行ったら食べさせてもらえる?」

「君達のためなら、ノード政府が山ほど提供すると思うよ。」

「NASFの果物ときたら、人工照明で作られた苺と葡萄ぐらいだからな」

「苺と葡萄!それは食べてみたい。ノードにはそんな高級な果物はない。ということは、もしかして葡萄から作るワインというのも有るのか?」

「有るよーー、毎日水のように飲んでる」

「一度でいいから飲んでみたいな、そのワイン」

「残念だがワインは持ってきていない。こんな事態に失礼だと思ってね。内緒で持ってくればよかった」

「じゃあ、ここは砂糖黍ジュースで乾杯だ!」


 調査隊とNASFのコンピューター技術者を乗せた船は3日間大西洋を北上し続けた後、10日前に出発した島の東の沿岸部に戻って来た。そこから一行は自転車に乗り込み、自走式リヤカーに医療用物資を積み込んでノードへ向かった。

 ノードに到着した一行は、待ち構えていたノード政府の幹部や出迎えの人々から大歓迎を受けた。早速、ノードの医療関係者へコロナウイルス治療薬が引き渡され、各医療機関への配布、重症患者への投与が開始された。NASFから届いたウイルス治療薬は劇的な効果を表し、ノードの多くの患者を救った。クレイとターヤの夫婦と3人の息子ラルフ、ジェフ、レオンもコロナウイルスに感染し、末っ子のレオンは危篤状態になったが、コロナ治療薬の投与で奇跡的に回復した。ノード全体では疫病収束までの2年間に5百人近くが死亡したがノードからのコロナウイルス治療薬がなければその数倍の使者が出ていたと言われている。


 NASFから到着したコンピューター技術者達は、ノードのコンピュータシステムの復旧にも取り組むこととなった。カナクからノードに到着していたビリーを主任とする電気技師達とも協力して、システムの破損個所を修理し、パスワードを自動検索装置で突き止め、システムへのアクセスを復旧した。150年ぶりにノードの中央コンピュータシステムが復活し、人類の絶頂期から受け継がれた豊富な情報が取り出せるようになった。その後ノードの医師団は、この中央コンピュータシステムを使用してコロナウイルスワクチンの開発にも成功する事になる。

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ドームの世界 島石浩司 @vbuy5731gh

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