喧嘩の売り買いをする水玉について。

 パニ先生の研究室に向かうタクシーの中で、ミケちゃんはひどくご機嫌ななめ。どうやら水玉猫に不満があるようです。


「ねぇ、くまぱんちゃん」

「ん?」

「なんなの、この展開? ここはのはずだよね」

「うん、たぶん」


「いくらの見出しの中のお話にしたって、なんでを出してくんのよ、水玉猫ったら」

「オバケのもと?」


「死体よ、死体。『猫のお菓子屋さん』は、のんべんだらりとしたお話じゃないの。なんで、いきなり死体が出て来んのよ」

「さあね」


「風呂敷包み背負って乱入してきたあたしが言うのもなんだけど、水玉猫、わかって書いてんのかしら」

「さあ、どうだかね。荒れてるからね、最近」

「なんで?」

「この間、あいつがこれまで夢にも思わなかったことを講評されたからだよ。『猫のお菓子屋さん』じゃなくて、別の短いお話にだけどさ」


「何、言われたん?」

「水玉猫は読者を騙そうとしているとか、読者に喧嘩売るのはやめろってさ」


「うっそ! あいつに読者を騙せるほどの頭脳がどこにあるって言うのよ。あるんなら、先ず、うちらに見せてほしいよ。そしたら、苦労しない。あいつが考えつくようなことは、たかが知れてるから、いつも、うちらが自主的に動いてお話を作ってあげてんじゃないの!」

「だよね。世界一ドレスコードの厳しいレストランに、風呂敷包み担いで現れるとかね。喧嘩売ってるんじゃなくて、売られてるんだ」


「なによ。あたしが、水玉猫に喧嘩売ってるって言いたいの?」

「違う?」

「そりゃそうかもしれないけど…… だからって、『猫のお菓子屋さん』に死体を出さなくったっていいじゃないの」

「売られた喧嘩は、買うつもりなんじゃないの。身の程知らずと思うけどね」


「やつの頭だけじゃ、すぐに収集がつかなくなって、いつも通り、あたしたちに泣きついてくるのは目に見えている」

「まあね」

「こんな無理矢理な展開にするくらいなら、『読者に喧嘩売ってる』とか『騙してる』って講評した人に、直接弁明した方が簡単だし早いじゃん」

「それが、そうはいかないんだよ、ミケちゃん」


「なんでよ」

「大昔にさ、教授に教わったんだとさ。『作品の批評や講評は、反論せずに黙って聞け。何か言いたいことがあるなら次の作品にして返せ。それだけのことだ』って。それで、水玉猫はその教えを律儀に守ってるってわけ」


「何が律儀よ! だったら、指摘されたお話でやればいいでしょ! なんで『猫のお菓子屋さん』で、やんなきゃなんないのよ!」

「ぼくも、そう思うけどね」

「で、この後、どうするんの? なんか、考えてんのか、水玉猫」

「なんだかんだ言っても、結局ぼくらに任せっきりだから、なんも考えてないと思うよ」


「どうしようもないやつだ。それに前回から思ってたんだけど、あいつ、書く場所も間違えている。こういったことはだ」

「だよね。あ、そうだ。あと、騙そうとしたり喧嘩売ってるから、読者の人たちが次を読もうと思わなくなるみたいなことも言われてた気がする」


「なーんだ、そうか。『猫のお菓子屋さん』にお客さん、来なくなったのは全部水玉猫のせいだったんだ。うちら、なんも悪くない」




 ミケとひらがなのくまぱん、言うことはそれだけか。

 前回から水玉は何度も言ったはずだ。

 おまえら覚悟しておくようにとな。




「それに、ガラ悪くなってるよね、水玉猫」

「めんどくさいったらありゃしない。ほっとこほっとこ」

「ミケちゃん、その風呂敷包みの中身、何? 何持ってきたの?」

「企業秘密と秘密兵器の入ったノートPCとお菓子」 

「お菓子、持ってきたの? ランチ食べ損ったから、ぼく、おなかペコペコだ。お菓子食べよう♪」

「そうだね。甘いもの食べて、落ち着こう」


 ミケちゃんは、風呂敷包みを開きました。


「あぁぁぁ!!!」

「ミケちゃん、どうしたの?!」

「企業秘密と秘密兵器がぁぁぁぁぁぁ」




 ここで、水玉猫からのお知らせです。

 このエピソードを読んでいるあなただけに、秘密解禁!

 

 ミケちゃんの企業秘密・秘密兵器とは、ファンタジーミステリー新作2編!

 敵同士だった二人の訳あり傷ありの青年エージェント。

 嫌々ながらもバディを組んで、三毛猫(♂)と聖霊宿るテディベアと共に優柔不断—— もとい縦横無尽に、過去・現在・未来を駆け抜けて、世界の終わりの回避のために戦います! 

 謎が謎を呼ぶドキドキハラハラ冒険ミステリー!(大風呂敷を広げる水玉)


 魔法少女のアルバイトを強要されるDC(男子中学生)や、ヘルメスの片割れ(♀)とかも登場します♡



 

 ということで、ミケとくまぱん、あとは頼んだ。

 水玉が広げた大風呂敷を、畳んでおくれ。

 せいぜい、ふたりでがんばれよ。



 

「水玉猫!!! だから、あたしに喧嘩売るんじゃない! あたしはあたしが担いだ風呂敷で間に合っているから! あんたの大風呂敷なんて知ったこっちゃないから!!」



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支店 猫のお菓子屋さん 水玉猫 @mizutamaneko

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