もうひとつの戦争 ⛩️

上月くるを

もうひとつの戦争 ⛩️





 夜明けの深夜ラジオから流れて来たのは、ベトナム戦争の真っ最中の1965年、谷川俊太郎さん作詞、武満徹さんの作曲による反戦歌『死んだ男の残したものは』。

久しぶりでしたが、冷えきった、ゾッとする感じが瞬時に全身を駆けめぐりました。


 死んだ男が残したものはひとりの妻と子だけ、ほかには墓石ひとつ残さなかった。そんな索漠とした歌詞が五番までつづき、最後の六番になってようやく「死んだ歴史の残したものは輝く今日とまた来る明日」一抹の希望が示される、そんな内容です。




      🌄




 目をつむった頭をよぎったのは、われながらアレですが(笑)お金のことでした。肝心のベトナム国民の犠牲をさておく格好になるのは、たいへんに気が引けますが、現地で戦死した米兵の遺族には、戦後、国から手厚い補償がなされたのでしょうか。


 というのも、無謀で無為な太平洋戦争に大負けした日本では、戦死者は英霊として靖国神社に祀られ神になり、その遺族には十分な軍人恩給が支給されましたが、同じ国家の犠牲でも満州の棄民や空襲の被害者の遺族はまったく顧みられなかった……。


 いまさらですが、歪んだ戦争(もとより正しい戦争など存在しませんが)の実態がこういうところにも吹き出物のように噴出し、約八十年後の現在もジクジクと湿った膿みが乾かずにいること、過去の延長に生きる世代は忘れてはならないのでしょう。




      🏫




 それからもうひとつ、とても気になっているのは学校教師の果たした役割のこと。実際には存在しない満洲の開拓義勇軍として年端もいかぬ少年たちを送りこむため、国のキャッチ「王道楽土」を称えて幼い士気の鼓舞につとめた国民学校の教師たち。


 朝鮮戦争が終わったあと、1959年に始まった北朝鮮の帰還事業に加担し、彼の国のキャッチ「地上の楽園」を称えて子どもの側から各家庭に働きかけた朝鮮学校の教師たち……教育が簡単に国の手先になる実態、あらためて恐ろしくなります。💦




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