第12話
時間通りに集まり始めている村の面々を眺める青年、ノッジは考えていた
出来るだけの準備はしたとは、思う
村長を説得して村の中で魔術を使える者たちをかき集めた、魔術は異種と戦うために必要なモノ、しかもドラゴン相手であればもしもの時に必要だと言えばしぶしぶとだが納得してくれた
まぁ村長の考えはなんとなく分かる、魔術が使える者はこの村では貴重だ、それを危ない場所に向かわせることに抵抗があるんだろう、だが出し惜しみした結果、俺たちが全滅すればそれこそ村が滅ぶ
「・・・・はぁ」
つい口からため息が漏れる
俺としては、さっさと村を捨てて逃げるべきだと思う、もちろん生まれ育った村を捨てるのに抵抗はある、あるが死ぬよりはマシだ
ドラゴン、俺たちが見たアレが浅い場所まで出てくる可能性は低いと、この村で薬師兼知恵袋的な立ち位置のグレタ婆さんは言った、ドラゴンは一度決めた住処からあまり外に出ないと
たぶんそれは間違いじゃないんだろう、あの婆さんは有名な魔術学校を卒業したような人だ、生まれ育った村に帰ってきてのんびりとしちゃいるが頭はボケてない
「だが、絶対じゃねぇ」
そう絶対ではない、もしアレが浅い場所まで来て、それと運悪く遭遇すれば?
多くの村人が死ぬだろう、ドラゴンっていうのはそういうものだ
だが村を守るにはそれしかない、爺さんが言ったとおりだ
【森の日】を強行して、運悪くドラゴンに遭遇すれば大勢の村人が死ぬ、だが少しは生き残れるかもしれない
【森の日】をこのまま延期すればいずれ森に村が呑み込まれ、確実に滅ぶ
選択肢は二つ、本当ならここに村を捨てるが選択肢になるが村長はその選択肢を捨てた、だったら取る選択肢は一つしかなかった
「・・・・頼むぜ、精霊様」
眼を閉じ、精霊に祈る
どれだけ、そうしていただろう
「全員集まったか」
眼を開ければ、いつの間にか今回の参加者全員が集まっていた、ただ時間までは少しあるからか各々で談笑している
眼を細め、ドラゴンが出た時はこの中の何人が生き残れるのかと考えようとして
「あぁ、時間通り、いやぁ今年の若いのは時間を守れて偉いもんだなぁノッジ!」
「うぉっ、ガレス!、びっくりさせんなよ!」
いつの間にか横にいた、坊主頭の筋肉達磨、ガレスの声に驚く
「はっはっは、すまんすまん!、なに辛気臭い顔をしておるなと思ってな」
そのままデカい声を出しながら背中をバシバシと叩かれる、クソいてぇ、相変わらずの馬鹿力だ
「いっててて・・・・そりゃそうだろ、”アレ”が出たらどうなるかお前も分かってるだろ?」
「うむ、分かっておるとも、だがそのような面もちでは出来ることも出来なくなってしまうぞノッジよ、お前は思いつく限りの準備を整えた、あとは精霊様のご機嫌次第だ、腹を括れ」
「なに精霊様の信仰篤き、この俺がいれば問題ない!」
「・・・お前は相変わらずだな、ガレス」
ガレスのいつも通りの様子に、苦笑いを浮かべる
「でも、そうだな」
いつもは暑苦しいだけだが今回ばかりはその”いつも通り”がなんとも心強かった
「ここでうじうじしても、なにも変わらない、だったら少しでも前向きに考えるとしよう」
「そうだその意気だ、恐怖や不安は人の足を絡めとるもの、どこまでも前向きに考えると良いぞ!、それこそ運悪くドラゴンと遭遇してもあのお姫様がどうにかしてくれるかもしれんしな」
「あー、確かに」
そうだと思い出す、今回はなんとあのリリア嬢ちゃんと爺さんが一緒に同行してくれるんだ
リリア嬢ちゃん、10年前に爺さんと一緒にこの村にやってきた女の子、初めて見た時にはまだ5歳にも関わらず村の連中は男も女も関係なく、呆けてしまうようなとんでもなく綺麗な子だ
しかもそれだけじゃなく、走れば狼より速い上に腕っぷしもかなり立つ(10歳の時に熊を素手でノシて担いできた時はビビった)
頭も良くて、何回か魔術を見せてやればそれだけで魔術を使えるようになるし、なんと見せてない魔術まで使えるようになるという、とんでもない子だ
もちろん村の連中はあっという間に夢中になって(特に男)、昔はよく絡んだものだが本人は「爺ちゃん以外興味ない」の一点張りで、告白した連中ももちろん全員玉砕した、ちなみに俺も振られた、それ以降気まずいのか当たりが強い気がする
ただ村長みたいな、年寄り連中は「恐ろしい・・・」「人間じゃない」「きっと化け物の血が混ざってるんだ」と言って、あまり関わらない
それを察してか、大きくなるにつれてリリア嬢ちゃんは村に来なくなっていった
一度、なんでそんなことを言うのかと聞いても「知らない方がいい」の一点張りだ、それ以降俺はあんまり村長たちが好きじゃない
「あのリリア嬢ちゃんなら、もしかしたらな」
ここ数年であのお姫様がどこまで強くなったかは分からない、少なくとも10歳の時点で俺よりは強かった、そんなリリア嬢ちゃんならもしかしたら・・・
「それに、爺さんもいるし・・・・よく考えたらどうにかなりそうだな」
「むっ、グレス老は戦えるのか?」
「あー、ガレスは知らなかったな、俺に武器の扱いとか戦い方を教えてくれたのはグレス爺さんだよ」
「なんと、ノッジの師はグレス老だったのか!」
「あぁ、どこまで強いかは知らないけどな」
実際、グレス爺さんは色々と謎だ、リリア嬢ちゃんと一緒に森の深いところまで潜っては無傷で戻ってくるってことは少なくとも俺よりは強いんだろうが
というかあの爺さんは自分のことをなにも話さないのだ、どこから来たのか、若い頃は何をしていたのか、質問してもいつも煙に巻かれてしまう
「だけど」
だが、なぜかは分からないが
「たぶん、大丈夫だ」
あの爺さんと一緒にいると、大丈夫だとなぜかそう思える
月光(仮) @aruhinoyume000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。月光(仮)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます