KAD●KAWA地下には異世界が!?

Rootport

読者と売上、大切なのはどちらですか?

「はあ?打ち切りぃ!?」

 俺の叫び声は市ヶ谷駅近隣に響き渡った。

 株式会社KAD●KAWA・ライト文芸部門のオフィス。

 打ち合わせ用の小会議室に俺はいた。

 できることなら、出されたペットボトルの緑茶をぶちまけてやりたい。

 この、俺の目の前でニヤニヤと笑う眼鏡の担当編集者に。

「落ち着いてください、宇連うれ内緒ないお先生」

 フッと鼻で笑いながら、担当編集者は言う。

「この業界は数字がすべて。たとえノーベル文学賞級の文才の持ち主だろうと、売れなければ人権はありません」

「だからって……。俺の『もふもふケモミミ奴隷少女とハーレムスローライフ』は残り1巻で綺麗に完結できると伝えていたはずです」

「ですから、出せないんですよ。その1巻が」

「でも……でも……最新刊のラストではついに主人公が魔王ジャアークと対面して、いよいよ最終決戦だ! ってところで終わっているんですよ?」

「ああー。たしか、そうですよね」

「そうですよねじゃないですよね!? この続きを気にしている読者だっているですよ! ここで打ち切りじゃ、読者さんたちの気持ちを裏切ることに……」

「言ったでしょう。この業界では数字がすべてです」

「つまり?」

「次巻を心待ちにしている読者なんて、ほんのわずかしかいないと言っているんです」

「ふざけるな! いくら天下のKAD●KAWA編集者だからって、言っていいことと悪いことがありますよ!? 読者を切り捨てるなんて――」

 俺は思わず立ち上がった。

 相手はニヤニヤと笑いながら答える。

「分かりました! 分かりましたから!」

 そして真剣な表情になり、少し身を乗り出す。

「どうしても出したいですか? 『もふケモ』最終巻」

「当然です!」

「でしたら1つだけ、方法があります」

「!?」

「宇連先生には、新しいシリーズを書き始めていただきたい。その新シリーズの売上次第では『もふケモ』の最終巻を書かせてあげましょう」

「わっ、分かりました! 新シリーズですね! さっそく帰宅して企画を練ってきます! お任せください、100本や200本ならすぐに思いつく――」

「いいえ、その必要はありません」

「……は?」

「先生には、ご自身の体験を小説化していただきたいのです」

「えっと、それは……。つまり、私小説みたいな?」

「私小説というよりは、ドキュメンタリーに近いものになると思いますねえ……」

 相手は不敵な笑みを絶やさない。

 こいつが何を言いたいのか、俺にはさっぱり分からなかった。

「埼玉県・所沢市のサクラシティはご存じでしょう?」

「はあ、まあ……。たしか、御社の美術館がある……?」

「あの地下がですね、繋がっているんですよ」

「どこに?」

 心底バカにしたような表情で、担当編集者は俺を見た。

 そんなことも分からないのか? と言いたげな顔だ。

「決まっているじゃないですか、異世界ですよ」


【注】この物語はフィクションです。

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