第24話 伯爵夫人の独白12
「まあ、やりすぎた気もしたな。ちょっとだが」
「だって、ユーリが手紙で書いてきたんじゃない。あの人の妹が、大学でザックと良い感じだったって」
お茶を無表情に飲み続けるユーリを睨む。あの日、私が「魅了」芝居の相手役に選んだのは、ザックと良い感じだったらしい女性の兄だった。ちょっとは八つ当たりしてやらないと気が済まない。当たり前である。私が一番ザックのそばにいるのに相応しいんだから。
「怖かったなぁ、あの時のお前。たっぷり魅了して骨抜きにしておいて、私の魔力が手に負えない、ってシクシク泣き出すんだもんな」
「あれくらいしか思いつかなかったんだもの。女の武器は涙って言うでしょ」
「卑怯すぎる」
「うるさい」
まあ事は上手く運んで、一刻も早く私を安全な場所へ厄介払いしなくてはならないと決意した両親のおかげで、私はザックと結婚できたのである。
そして嬉しいことに、ザックも私のことが好きだったのだ。そう告げられた時は夢でも見てるのかと思ったけど、真っ赤な顔で大慌てして、聞いてもいないことを喋り続けて墓穴を掘るザックを見て、現実だと実感した。
だから、今私はとっても満足しているのである。大好きな人がずっと私のことを好きでいてくれて、私が初恋で、私と同じように下心満載でこの結婚を承諾したということに。
「それでね、私、なんとかしてザックに振り向いてもらおうと思ってたんだけどね、ザックも同じだったの。私のことが初恋で、ずっと忘れられなくて、私の幸せのために気持ちを押し殺してたけど、やっぱり諦められなかったんですって!」
「早口か」
「ふふ、嬉しくて!」
こんなに心から満面の笑みになったのは久々だ。はしゃぐ私を見ながら、ユーリもつられて笑顔になっていく。
「良かったな、お互い」
「本当に」
私たちの計画をネタばらしするのは、もう少し後でもいいかな。
とりあえず今は、屋敷で仕事に追われているであろう旦那様を思い浮かべながら、茶菓子を楽しむことにした。
辺境伯閣下の恋は絶対にうまくいかない 境野線 @kyokaisen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます