サヨナラの朝
藍埜佑(あいのたすく)
サヨナラの朝(ショートストーリー一話完結形式)
最新の医療技術が進歩し、人工臓器や再生医療の発展により、多くの人々が救われるようになった。しかし、それでも病気や死は避けられないものである。私が見守る患者さんもその一人であった。
ある朝、私は担当していた患者さんの病室に足を運んだ。彼女は人工心臓をつけており、長い入院生活を送っていた。私が声をかけると、彼女は優しい笑顔で返事をくれた。しかし、その瞬間、彼女の体に異変が起きた。呼吸が荒くなり、体が痙攣し始めたのだ。
私たちはすぐに医師を呼び、人工心肺を装着した。しかし、彼女の病状は悪化し、手遅れだった。医師たちは、彼女の家族に連絡を取り、彼女が亡くなる可能性が高いことを告げた。
私は彼女と話し、彼女が望む最期の時間を過ごすため、彼女を静かな部屋に移動させた。彼女は私に、「私の詩集を持ってきてくれるかしら」と頼んできた。彼女は詩人であり、自分で書いた詩を出版していたのだ。
私は彼女の詩集を持ってきた。赤い花が印象的な表紙の詩集だった。彼女は私に、自分の一番好きな詩を読んで欲しいと言った。私は彼女が選んだ詩を読んだ。
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【サヨナラの朝】
一人ぼっちで眠る
あなたが居ない部屋
わたしの目の前からいなくなって
でも、
すべての空間に、素粒子のように
存在するようになってしまったあなた
いまも愛しい、あなた
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彼女は亡くなった夫を思い出しながらその詩を書いたと言っていた。私はその詩に心を打たれ、涙が止まらなかった。
彼女はその後、静かに息を引き取った。彼女の最期の言葉は、「ありがとう、私は幸せだったわ」というものだった。とても穏やかな笑顔だった。
彼女の詩は、彼女の思い出を残すものとなり、誰かの心に届くことを望む彼女の想いを伝えるものとなった。私は彼女の死を悲しんだが、彼女が私に託した使命を果たせたことを誇りに思った。いまでも赤い花を見るたび、彼女の静かな笑顔を思い出す。
サヨナラの朝 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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