一回戦 決着

 まぶたを開けようとするたびに、宙を舞う片栗粉が目に入り激痛が走る。


「さぁ、私の攻撃がどこから来るかわかるまい……」


 翼の声が聞こえる。

 次の攻撃で完全に僕を倒すつもりなのだろう……


 僕はある事を思い付き、右の掌をあちらこちらに向けた。


「何? 『やめてくれ』ってポーズ? やめないよ、くらえ!!」


 目が見えないなら他の物で感知すればいい。

 さっきと同じように、バレーボール大の片栗粉が僕に襲い掛かってくるのが感覚でわかった。


 僕はさっきと同じように、片栗粉を右手で何度も殴り、ビンタした。

 そして、片栗粉が液体状に戻る前に、翼に投げつける。


「な、何!!」


 翼に固体となった片栗粉がぶつけられ「ドガッ!!」と音が鳴る。

 さっきとは違い、防御用の片栗粉をすべて空中に舞わせてしまった。

 結果、翼は自身を守ることが出来ず片栗粉の球をモロに受けてしまう。


「うぅ……」


 翼が横になっていた。


「解説のトニックさん。 今のは? 」


「蛇にはピット器官と言う熱を探知して獲物を追跡する能力があります。 それと同じように、擦田選手の右手は、運動能力だけでなく感覚も強化されています。 つまり、細かい温度を感覚で探り、片栗粉と上空選手の位置を感じ取った訳です」


「なるほど!!」


 館内放送が僕の言いたい事を全て言ってくれた。


「おい、翼、お前の負けだ」


 僕は、倒れた少女に声をかけた。

 この連続の禁欲生活のせいだろうか、目の前に少女が倒れているのがわかると息が荒くなっていく。


 しかし、右手は翼がよろめきながら、ゆっくりと起き上がるのを感じ取った。

 こいつ、諦めてないのか……


「宙を舞う片栗粉が視界を奪う事だけだと勘違いしていた、お前の負けだ」


 自分の息が荒くなっている理由が今わかった。

 鼻の穴を徐々に片栗粉が塞ぎ、口元にも少しづつ片栗粉がドロリと浸食してくる。


「私の狙いは最初から、窒息死だったんだ」


 翼は叫び声を上げる。


「おっと!! 擦田選手、鼻を塞がれたぁあああああ!!」


「上空選手の騙しが上手く成功しましたね。 最初から窒息を狙う魂胆を隠すために視界を奪い、反撃されるのを承知で攻撃を開始しました。 このまま行けば、呼吸が止まり擦田選手の敗北が決まります」


 トニックとソーダは、僕が負けたと思ったのだろう。

 しかし、それを裏切るかのように僕はつぶやく……


「なんだ、そんな事か……」


「おい、お前はこれから呼吸が出来なくなるんだぞ。 喋るらず息を吸いこんでおいた方が勝率は上がるんじゃないのか? 」


 僕の声を聞き翼は早口で僕をまくし立てた。


「おいおい、ここがどこかわかってるだろ? そして、僕の能力でこれから何をしようとするかわかるんじゃないか? 」


「お、おい。 まさか」


「そのまさかだよ」

「やめろ!! そんなことしたら私だけじゃなくてお前もダメージを受けるぞ!!


 僕は翼の言葉を無視して、大きな水槽を殴りつける。

 右腕にしっかりと、ガラスにヒビが入るのを感じる。


 水槽のいたるところにひびが入り、中から水があふれだしてくる。

 そして、僕と翼は水に流された。


 水流に飲まれ、ぶつかりそうになる壁を右手で防ぐ。

 口と鼻についていた片栗粉は、翼の身体を守るために僕から剝れていった。


 波が収まり、僕と翼は立ち上がる。

 部屋にはまるでプールのように水が溜まっていた。

 大体胸元ぐらいの水位だ。

 そこで、僕と翼は5メートル程の距離で向かい合った。


 翼は下唇を噛んだ後、一旦深呼吸してから話し始めた。


「私が中学になった春。 友達が出来たのがとても嬉しくて一回外食したんだ。 家に帰ると母さんはからあげを用意してくれていて、だけど私はお腹がいっぱいで…… 食べられなかった。 あの時の母さんの悲しそうな顔が忘れられないんだ……」


「…………」


 僕と翼はしっかりと顔を合わせる。


「ところで、水槽を割った後のプランは考えてあるんでしょ? 例えば水の衝撃波で攻撃するだとか? 」


「そうだ…… 東アジア沿岸海域には、テッポウエビと言うエビが居る。 そのエビはハサミを閉じる衝撃で獲物を気絶させることが出来る。 僕の右手なら、それが可能だ」


「その前に、私が攻撃したとしたら?」


「おいおい、お前の攻撃だ何て片栗粉で口と鼻を防ぐだけだろ? 僕の破壊の素早さには敵わな……」


 翼の近くにガラス片を包んだ片栗粉が浮かんでいた。


「私は片栗粉を操りガラス片でお前の首を斬る…… お前は右手の衝撃で私を襲う…… 最後は正々堂々、どっちが速いかで勝負だ」


 僕と翼の頬に水滴が流れる。

 これが海水なんかじゃない事は、例え賢者タイムだとしてもわかるだろう。

 僕と翼は大きく息をのみ構える。


 そして、波が小さくなり、物音が小さくなっていく……

「ポチャン」

 たった一つの大きな水滴が音をたてた瞬間。

 僕は右手を素早く閉め、翼はガラス片をこちらに飛ばした。


「「………………」」


 僕と翼はにらみ合う……


 翼は「ザボン」と水の中に倒れていった。


「今回の戦いの勝者は、擦田 扱指選手だぁ!!!!!!」


「いやぁ、どちらか勝つかわからないシーソーのような戦いでしたね」


「そうだね!! あ!!医療班が上空選手の元に向かってる!! この戦いで起きた怪我を全て治るから安心してね!!」


 館内放送の案内通り、黒服の男たちが翼を水から引き上げて医務室に運んで行く。


 一応、油断はしておいた。

 死んでも治せるとは言われたが、目の前でその状況を見るまで信じられないからだ。

 自分が人を殺してしまうという事に耐えられるメンタルはない。


「お疲れさまでした」


 トニックが僕の元までやってきた。


「…………」


「戦いの感想をお願いできますか? 」


「戦いの感想かどうかはわからないんだけどいいか? 」


「どうぞ」


「僕が勝ってよかったのかな……」


 僕の様子を見たトニックは一旦呼吸をおく。


「ありがとうございました」



 黒服に案内されて個室に戻る。

 個室に戻ったらやりたい事は既に決まっていた。


 僕は、さっきの戦いで物理的に失敗しないオナニーの方法を思いついていた。

 どうしても抜きたい。

 僕はその方法を試そうとした!!

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オナニー禁止デスゲーム 〜勝ち抜くために戦う、大切なモノのために〜 He @HeeeeeHeeHee

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