偽り=真実④



シャルフ・リベリエルダにとって、圧倒的有利な環境はいつしか圧倒的不利な状況を生んでしまっていた。


今回用いた固有結界精霊術の特性は二つ。


・一定の空間構築により外界からの干渉全てを遮断し、広大な無機時空間に対象と自身を飛ばす。

あらゆる物質や術技を防ぎ切る耐久性と強度を誇る。


・一定属性以外の魔導の介入は不可。可能とするのは闇属性、もしくはバフ系統の身体強化系のみとする。

※魔導に用いる魔力を外界から補給するのは術者も含め、不可。


以上がこの結界術の特性。


精霊術は魔導のように、著しい糧は必須ではないが術者と精霊の波長、共鳴力によって出来る事に限りがある。

関係が浅ければ、出来る事のカテゴリーは少なく、逆に深ければどのような事でもある程度を可能としてしまう。


さらに下位、上位、最上位の位が存在し、上に上がれば上がるだけ行使可能な術式の幅が広がるのが特徴的。

ただし、使役するにはそれ相応の実力が伴う事もまたしかり。



(呪いだと?呪法関連のものにあれだけ莫大な質量を生み出せるなんて聞いた事がない)



シャルフは心の中で問答する。


戦場において、自分が有利な状況を作り出せれば優位で消耗の少ない勝ち方を選択出来る。敗因を少しでも排除する戦術の立て方を模索し憶測と予測を組み合わせながら実現させる事が出来れば最悪の結末は免れられると思っていた。


感情優先の戦術ではなく、理論に基づいた戦術の形成こそがシャルフの名声に直結しており、それらの経緯があったからこそ今があるのだと信じている。


どんな困難な状況下でも冷静に対処すれば導けない答えはないと鷹を括っていた。


だが、現実はどうだ?


絶対的有利な環境を作ったはずの当人には迷いがある。あらゆる術技を繰り出しても状況に光が見えず、気付けば不利な状況に心身ともに飲まれつつある。



「あ」



シャルフが的確な手立てを導こうとしている中で素っ頓狂な声が聞こえる。


放電が集束し、微かな静電気の音だけ響く中で。



「そろそろ聞かせてください」 



屈託の無い、キラキラした眼差しを胸に。



「どうやって偽ったのかを」



抑止されていたすべての鎖に蒼の雷が帯電し、霊体の手を無機に変えて真相を尋ねた。


その瞬間。意図してない、そんな事はない!と言い聞かせる自分を他所に冷や汗と後退の足に歯止めが効かなくなっていた。


眼前に立っているのは小さな少年。


世にも珍しい白髪に妖艶な輝きを放ち続ける翡翠色の瞳が印象的な少年。


否、少年の皮を被った怪物であると初めて認識した瞬間からシャルフは一時の希望を捨てる。



『【バギー】!!!』



叫ばずにはいられない程に、感情に張り巡らせられた緊張感を解かずにはいられないかのように大声を張り上げて一つの名を口にする。


声に呼応するかのように漆黒に彩られた外壁、地面に波紋が広がる。



「そういう事ですか」



何かに納得するシキ。


複数の波紋が同調し、集束すると今まで二人以外の生物反応の無かった空間に複数の反応が出現し始めた。


その姿形は人型を模倣する黒い塊。

微かに有機的な魂のような物質を胸に秘めていて、五体以外の部位は見当たらない。


いや、数秒の時間が経つとその物体に変容が見られた。


それはシャルフ・リベリエルダと同一。

傍聴人、はたまたマネキンのように誰一人ぴくりとも動かないが、間違いなくそれはシャルフと同一人物。



『半分正解で半分不正解』



シキはこの言葉の意味をようやく理解し、満たされた探究心にニッコリと笑みを浮かべた。



「偽物でも分身でもない、限りなく本物に近い存在。ユニークで独自性が強く、戦術以外でも大きく活用出来そうな能力なだけに、その代償は未知数。実に面白い能力です」



軽やかな言葉とは打って変わり鎖、矛を持たなかった穢れの竜星の先端が竜を思わせる顔に形状変化し、その動きに生物性が加わる事で獰猛さを得る。


輝き続ける瞳の中に運河のような景色が投影し、穢れの竜星の動きに統一性が出た所でコンダクターを思わせる姿勢をとる。



「さぁ改めて粛清の時。永遠の苦しみは貴方にとって、浄化の捌け口になりましょう」



両者ともに万全の態勢。


栄光と意地を背負う英雄は緊張感と臨場感に心を揺さぶられる。


かたやもう一方は復讐心と探究心の両立を保つ事で自我をより強固なものに昇華したいと願う。



火蓋は再び、切って落とされた。

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誓約のタイラント〜白き子の宿命は英雄を屠り、蹂躙する事〜 @waon2910

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