偽り=真実③



《無機空間》



全ての面積が漆黒に彩られた空間。

シャルフとシキ以外の生物は存在せず、静かさと不気味さの合わさる世界が二人の舞台となる。


パチン!


渇いた音が木霊すると漆黒の世界に明かりが灯る。


異質な空間。


終わりなき広大な空間のみが広がり、あたり一面に散りばめられる星屑のような物質が壁や地を構築しているようで、シキは周囲を見渡して歓喜する。



「なるほど。お母さんが言ってましたが、これが精霊による固有結界精製術ですか」



その素振りはそこらの子供と何ら変わりはなく、物珍しいものを見た時の反応とそこに虚言は見てとれない。



「構成材料は何でしょう?魔力や魔石は分かるとして、一般的な化合物に有機物質も複合しているのでしょうか?んー、勿論、対価はそれ相応のモノという見解には行きつきますが、能力の詳細によっては大きなモノを糧にしないと行けないのかもしれませんね」



ただ、普通の子供と違うのは無邪気に喜ぶとは異なる。

学者や博士といった物珍しいものを研究し考察、結果を知りたいが故に喜ぶ、いわば探究心をくすぐられるから出てしまう感情の概念なのだ。


誰に語り、質疑を飛ばすわけでもなく、ただ一人で疑問解決をゴチる様にシャルフは静かに柄に手をかける



「強度や耐久性は現段階では計り知れないと仮定して、空間にどのような影響があるかだけは把握しておきたいですね。目から認知される情報にも不可思議な判定が出てますし、少しだけ試しておくとしましょう」



永遠に心の声を紡ぐのかと思えば、袖口から数本の鎖を放ち、無造作に壁に打撃を与え始める。


鋭い速度で壁に当たった鎖は容易に弾かれ、傷一つ付く事は無い。


続けて弾かれた一本と複数本を今当てた場所と同じ場所に角度を付けて集中砲火する。が、結果は同じで意思を失った鎖は金属音を奏でて項垂れた。



「ふむ。"穢れの竜星"の強度に耐えうる耐久力ですか、精霊の加護とは実に素晴らしい」


『レイファール式飛剣術【翔凛】』



意思とは異なる自動防衛により、シャルフの剣先から放たれた灰色の斬粒子に呼応して応戦する。

ぶつかった瞬間、一時拮抗したが、鎖の強度に粒子は弾けて形を無くし霧散。


勢いを保ったままシャルフに追撃する鎖の軌道に焦る事無く、返り刃で射なしては鎖を断ち切ろうと刃先に力を込める。



断てるどころか、重力がかかる間際にスルリと抜けて斬撃を避け他の鎖と共にあらゆる方向からさらなる追い討ちをかける。



『レイファール式剣技術【旋風陣】』



ほぼ全方位といった攻勢に対し、自らを回転させて鎖の行先に全方位の剣撃を当てて全てを凌駕し、勢いを失った鎖を見て地に足を着けて一気に跳躍する。



『"諌めしは魂の楔。静停を仇なす暴徒に浄化の結びを"【エレルードの契り】」



口上の後。

シャルフの頭上、足元に魔法陣を発現してはその内から無数の霊体で象られた手が放たれる。


対象である鎖を掴み、地面に捩じ伏せてはその動きを抑制し鎮圧する。


抗おうと動き続ける鎖だが、主の腕から枝分かれして伸びる手によって完全に封じられてしまい微動だにしなくなった。



「エレルードというと、起源の英霊ですか?」


『疾ッ』


自身の鎖が封じられた事に感心が移るシキを他所に、黙々と術技を重ね出しするシャルフ。


問答する気はないと言わんばかりに切先をシキに向け躊躇のない斬撃を見舞う。


距離を感じさせない足使いは流石の猛者といった所か。

どの動きにも無駄な動作は無く、早々と決着を付けたいという意思が伝わってくる事をシキも感じてはいた。



「やっぱり英雄と詠われる人との戦いは面白いですね。僕には精霊や英霊の類いの方々とは関わる事すら許されないですから、羨ましいです」



刃先があたる直前。


翡翠色の瞳が力強く輝きを増す。


共鳴するようにその小さい身体から蒼き雷が柱の如く砲弾し、刃先に触れた瞬間、強い静電気を引き起こしてシャルフごと吹き飛ばす。



『チッ。精霊や英霊の類いでないとするならそれは何だ?魔導は一定の属性以外、使用するのに規定がある。それを考慮したとして、それは何だ!?』



あまりに常軌を逸した状況に思わず感情的になるシャルフ。



「なるほど、やはり精霊術にはルールがある。魔導の干渉は一定値を除いて皆無にするというのは大きなヒントですね。ちなみに僕は魔導にも精通していません。これはーー呪いといえば分かりやすいのかもしれませんね」



未知数の天井に昇る蒼き雷。


空間に舞う埃や空気に触れては激しい静電気を起こす。

その様はまるでシキをどんなものからも触れさせないように守護する生物を連想させ、敵対心を持つシャルフを威嚇するかの如く、猛威を振るう。











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