タビノモンにござんす 🐓

上月くるを

タビノモンにござんす 🐓





 朝ドラで、権威主義の塊りのような東大植物学研究室の面々に疎外される主人公の孤独感がやりきれなくなり💦 以前に下書きしておいたものを引っ張り出しました。



  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



 ここだけの話、うちのおとうさん、一昨年からお宮の係をやらされてるんだよね。

 うん、知ってる、任期は三年だったよね。持ちまわりとはいえおつかれさまだね。


 でね、毎月朔日に掃除に行くんだけど、うちの組は割当が広くて大変なんだって。古い地域の割当は狭いからすぐ終わるんだけど、だれも手伝ってくれないんだって。


 え、そうなの? 自分たちの分が終わると涼しい木陰に入って、わたしたち新参者が苦戦しているところを高みの見物っていうわけ? それはひどいね、何時代の話?




      ⛩️




 近所の女性と話したトウコさんは思いました、しっかり残っているんだね、旧弊。

 つい最近まで公然とタビノモノ呼ばわりしていた余所者排他意識、いまだに……。


 トウコさんの家は江戸時代からつづく農村の一画の分譲地にあり、半世紀近く前に越して来るまで、AとFの二姓の支配がここまで強いとは考えてもみませんでした。


 まず驚いたのは、否も応もなく氏子にさせられ高額の寄付を強制される神社の祭りの花形である巫女舞の候補に、新参者のむすめたちは最初から除外されていたこと。


 AとF一族の支配はすべてに及び、家庭の事情を承知していながらトウコさんがPTA副会長にさせられそうになったことも、子らが冷たくされたことも根は同じ。


 あの閉塞感、息苦しさがいまなおつづいていたとは、まったく知らずにいました。

 そして、昨年、加齢を理由に氏子を辞退しておいて本当によかったとあらためて。




      🌎




 戦時中の満洲開拓は国策として各村長や学校長に命じられたもので、そのノルマを果たすため、威したりすかしたり、あの手この手で村人や少年を説得したそうです。


 絶対服従的な空気のなかの集会で、前の方に座れるのは豊富な耕作地を持っている地主たち、うしろの貧しい農民は、うなだれて村長の演説を聞くしかなかった……。


 その結果の敗戦であり、しかも支配層はさっさと逃げ出してのちの非情な棄民策(現地に置き去り)であったことを考えると、人間、変わらないなあと思うのです。


 八十年やそこらの歳月では、文明は進化しても文化(心)は平気で停滞したまま。 

 行政が懸命に都会からの移住を推めても、受け入れる住民がこれではどうなの?




🐑ここで話は変わります。🗨️💬🗯️💭 🗨️💬🗯️💭 🗨️💬🗯️💭 🗨️💬🗯️💭 




 千円カット店の有線から流れて来た曲。

 歌ったことはないけど懐かしさを招く。




 ――♪ ひとりひとり 今日もひとり

     銀色の はるかな道……

 

 


 なんという、さびしい歌詞だろう、けれど、どこかに仄かな明るさもある。

「谷間の春は 花が 咲いてる」のフレーズが、冬の嵐の救いになっている。


 二番は「つらいだろうが 頑張ろう 苦しい坂も 止まればさがる」( ;∀;)

 申し訳ないが歌詞としてコナレテいないし、教訓くさいのは好きじゃない。


 それに坂を人生にたとえれば、残念ながらひとつ越してもまた現われるし。

 せっかく極めた頂上の風景を眺める間もないし、平坦な道など数えるほど。


 日本中が戦後復興から躍進を目指していた、わたしたちの世代はまだいい。

 就職氷河期をいまだに引きずるロスジェネ世代の坂、いったいいくつ……。


 時代も場所も環境も生まれて来る本人は選べず、すべてはあなた任せの人生。

 理不尽といえば、これ以上の理不尽はないだろうね……鏡の自分につぶやく。

 



      🌖




『銀色の道』は昭和41年(1966)にザ・ピーナッツとダークダックスが歌ってヒットしたが、その歌碑が北海道紋別市にあることを帰宅後のネット検索で知った。


 そのいわれは、塚田茂さんの作詞を受け取った作曲家の宮川泰さんの父親が建設に携わった、住友金属鉱山鴻之舞鉱山の専用軌道「鴻紋軌道」の廃線跡にあるという。


 レール跡の水たまりに月の光が映る様子を見たとき「これこそ銀色の道、この曲の原点は鴻之舞にあると確信した」……つまり後付け、なのに歌碑まで建てたらしい。


 そういえば、景気がよかったころ句碑や歌碑が全国各地に建てられた記憶がある。

 いまでは風化する一方だが、これもまた紛れもない歴史の痕跡のひとつではある。


 


      🛬




 静かな爆音がしたので窓の外を見やると、真っ白な機体が斜めによぎってゆく。

 かすかに機首を持ち上げた小型の飛行機は、渡り鳥のように北を目ざしている。


 濁りのない早春の青空を一直線に飛行する物体を、希望の象徴と位置づけたい。

 この混沌の社会を創出してしまった世代のひとりが負うべき責任としても……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タビノモンにござんす 🐓 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ