第6話 2024/08/22 深夜
シコることも満足にできない。
音声作品を聴いていても、必ず外のことが気になるからだ。
今日一日自分のしでかしたこと、あのひどい混乱、鈴虫の聞こえる外から、何かが侵入してきてぼくを糾弾するような感覚。
「お兄ちゃん、好きだよ」と耳元で囁く声がする。
背徳感。けれども没入はできない。ぼくはだんだん萎えていき、中途半端に茹でられたアスパラガスみたいなものを握る羽目になる。
やがて果てることもなくぼくはベッドから跳ね起きる。
自分にはあらゆる権利がないと感じる。これはぼくの中の正義に反する。眠いのに寝ることが許されない。自分はどうしようもないクズだからだ。
というようなことをもう少しまともな文章にして、インターネットに流すことを考える。それで、なんになるんだ? ぼくが感じたことは十分面白いだろうか。
ここには「面白くないなら存在してはならない」と言う価値観が差している。これもぼくの正義に反する。面白さは人それぞれだし、どんな駄文にも面白さは見出され得ると考える方が正しい。人の感性はそれほど狭量じゃないのだから。
しかしそれでも、ぼくの場合は別だ。自信がない。全くない。ぼくはこう考えました、にどれほどの意味があろう。ないのだ。
ここには他者が求められている。他の人に認めて欲しい。なんだ承認欲求じゃないか。
この承認欲求とやらが健全なものなのか、ぼくには分からない。固体としての自己がなく、あるとしても流動的で、ほとんど霧散しているような身分だからだ。そうしてみると霊体である。
自己のない承認欲求は病的だと感じるのはこの点だ。
そもそもぼくを呼ぶことは可能なのだろうか。ぼくを落ち着かせ、安心させて、自信を持たせることはできるのだろうか。そのためにはぼくの作品群をかき集め、資格でも並べて、(破綻した)人格を語って、「だから」で繋ぐ必要があるだろう。そうか? 分からない。あくまで方法の話だ。
「だから」、君は生きていて良いし、自信を持って良い、というような。
そして、こういう考えもまたぼくの正義に反する。別に作品がなくたって、資格がなくたって、人格を語らずとも、人は生きていていいし、自信を持っていい。
論理的思考に吐き気を催す。誰のためにこんなことをやっているんだ? どうせこんな文章も「誰にも読まれない」。いや、インターネットに公開するからには読んでくれる人もいるだろうが、ぼくは気分として、「誰にも読まれない」「価値がない」という妄想から抜け出せずにいる。
どうせこの文章も碌に読み返さないのだ。この文章を書いていた、という事実は残る。けれどもやはり、そこに意味なんてないんだと思う。目的もない。
そして、そういう在り方もあって良いとぼくの正義は認めるが、ぼくは自身に適応できずにいる。
アンチ・ニクロルク 織倉未然 @OrikuraMizen
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