第10話 やっぱり仲良し䍃璃亳杓

「䍃璃…」


「あぁ、祥子、おはようございます」


「おはよう…」


「何かあったのですか?」


「わたし、今日、亳杓に告白しようと思うの…」


「…そうですか。上手く行くと良いですね」


「良いの?本当に」


「なぜそんなことを訊ねるのです?」


「だって…やっぱり䍃璃は…」


「だとしても、選ぶのは、あのおとこです。そうでしょう?」


「そう…だね…」



䍃璃は、内心、冷や汗をかいていた。もしかしたら、本当に祥子に亳杓が取られてしまうかも知れない…、その確率は、0%ではないのだから。自信がまるでないわけじゃない。でも、たっぷり、ある訳でもない。



―放課後、裏庭にて―


「どうした、祥子。おまえがはなしとは」


「今日は、䍃璃にちゃんと了解を得たの」


「了解…。それはなんの」


「亳杓にわたしが告白していいって」


(えらく早いな…䍃璃は、本当に歪んでいる…)


「わたし、ずっと亳杓がすきだった…。でも、わたし勉強が特にできる訳じゃないし、運動もさっぱりだし、䍃璃には何も敵わない。でもね、亳杓を思う気持ちだけは、䍃璃にはない感情でしょう?」


(そうではないのだが…)


「わたし、亳杓を幸せにするよ?だから…」


(!!)


祥子は、いきなり、亳杓に抱き着いてきた。ギュ――――っとする。涙を流しながら。さすがの亳杓も、うろたえた。何も言えないでいると、なんと、祥子はキスをしようと顎を上げて来た。


「無理だ。祥子」


その動きより、素早く、亳杓は祥子を拒んだ。


「…」


祥子は、瞳からポロポロ雫を零しながら、そっと亳杓の腕から手を離した。


「そ、そう…だよね…。ごめん。亳杓。馬鹿なことしようとして…」


「謝ることは無いが、祥子には正直に話したい。謝るのはおれのほうだ」


「え?」


「おれと䍃璃は別れてはいないんだ」


「…?」


祥子は、ポカンとしている。だが、そのうちワナワナと震えだした…。


「じゃあ、䍃璃は…。䍃璃は…、わたしを馬鹿にしたのね?」


「あ…いや…」


「…酷い…ひどすぎる…」


「そうよ」


「「!!」」


「祥子、あなたにわたしは勝ちたかった。あなたが、誰よりわたしの強敵だったから」


「強…敵…?そんなはずないじゃない!!わたしが䍃璃に勝っているっものなんて何一つないじゃない!!」


「わたしには…常識がないのよ…」


「はぁ!?」


「わたしは小さな頃から天才だった。そのわたしに常識を教えてくれる人はいなかった。だから、わたしは独りだった。だから、死のうとしたの。何もかも…イヤになって…。だけど、祥子、あなたには常識がある。人を傷つけるようなことをしない…という、素晴らしい常識が」


「…」


亳杓は屋上での出来事を思い出していた。あの時、䍃璃はかなり憔悴しきっていたように見えた。随分、無理をしてきたのだろう…とすぐ察することが出来るほど。同じ天才でも、人の心を重んじることのできた亳杓には、䍃璃のその悩みは、解りかねたが、それでも、十分、伝わっては来たのだ。


「わたしは、こうまでして、亳杓の気持ちを確かめたかった。こうまでして、祥子を傷つけたかった。…ごめんね、祥子…」


「…う…うぅ…あぁぁぁ!!」


祥子は、泣いた。そして、心の中で、䍃璃も泣いた。それを見て、亳杓の心も傷んだ。


こんな風にしか成れない、自分を、䍃璃は呪った。


それでも、亳杓も祥子も、この後、䍃璃を責めたり、別れたりすることはなかった。



★★★★★


「ねぇ、亳杓。わたしは、やっぱりひどいおんなね」


「そうだな。でも、䍃璃を責める気も、別れようなどと言う気持ちもまるでないのだ。それどころか、おれは随分と君に惚れ直した」


「え?」


「だってそうだろう?祥子の傷は、ちゃんと癒える。そう言う傷つけ方を君は選んだ。違うか?」


「そうかな…。どうだろう…。少なくとも、これは言える。わたしは…亳杓に変えてもらえたのよ。じゃなきゃ、わたしはもうこの世界にいないわけだし、亳杓の優しさも、祥子の真っ直ぐさも、自分の決定的な欠点も、きっとわからないままだっただろうから…」


「そうか…。そう言える䍃璃は、やはり崇高だ。落ち込むことは無い。それも、おれだけが知るひみつだ。君がひみつにこだわっていた気持ちが今はよくわかる」


「ひみつ…か。そうね。また、ふたりになりましょう。今日の放課後あたり…」


「ふむ。了解した」





<終>

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伯爵䍃璃と百合亳杓~実はわたしたち仲良いんです~ @m-amiya

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