第9話 再びのふたりと祥子の恋

「ねぇ!!別れたって!本当なの!!??」


「祥子…そんな大声でいうことですか?」


「だって…わたしなりにすごい頑張ってふたりを応援したつもりなのに…」


「それは悪いと思ってるわ。でも仕方ないでしょう。わたしとあのおとこは、やはり一緒にはいられないのです」


「な、なんで?」


「わたしは、どうしてもあのおとこを勉強の敵、としか思えないの。一緒に勉強していても、あのおとこがいると、勇んで東大の問題を解きたくなります。あのおとこが東大の問題を解いていると、わたしはハーバードの問題を解きたくなるのです。もう、何をしたいのか、わからなくなるのですよ」


「は、はぁ…。そんなもの?」


「はい。集中力が続きません。しかし、あのおとこ、わたしのプライドが高いと言って、小馬鹿にしてくるのです。わたしはプライドが高いのではなく、精神的に崇高なだけです」


「そ…そうですか…。もういいよ…」


「…祥子、あなたに、一つ、聞きたいことがあります。いいですか?」


「え?いいけど」


「あなた、あのおとこがすきなのではないですか?」


「!!!!」


もう誰が見ても明らかなその表情に、䍃璃は思わず吹き出した。


「あはははは。やっぱりそうだったんですね」


「い、い、い、いつから…気付いて…」


「わたしを様つきで呼ばないのは、祥子だけです。その叱咤と、お節介、わたしに対して、相当なライバル心があるな、と感じただけのこと」


「…ごめん。ずっと、ふたりをだまして…。でも、言えなかったのは、䍃璃のこともすきだったからだよ」


「解っています。あなたは、とても優しいおんなのこですからね。でも、その心を封印してまで、わたしとあのおとこを応援するのは、いかがなものかと思います。素直になることができるのは、とても素晴らしいことなのですから」


「だけど…」


「わたしは、素直ではありません。ひねくれて、歪んで、偏屈です。きっと、石で口を濯ぐでしょうね。でも、あなたと、あのおとこはちがいます。とても素直で、祥子はともかく、あのおとこも、優しいは優しいですね。ですが、その優しさが、鬱陶しいのです。あのおとこがわたしのそばをはなれたのです。あなたも、頑張りなさい」


「…いいの?本当に?」


「わたしに遠慮することはありません」


「…でも…亳杓、絶対まだ䍃璃がすきだよ」


「…なぜ、そう思うのです?」


「だって、見てれば解る。ずーーーっと亳杓は䍃璃を見てるもの」


「そうですね。わたしが思うより、わたしへのライバル心はあのおとこにはないかも知れませんね。ただ、わたしのプライドの高さが気に入らない、とは言われました。ですから、祥子、あなたの気持ちを隠す必要はありません」



★★★★★



「䍃璃、あんなことを祥子に言っていいのか?」


「あんなことって?」


「おれは、どう考えても、䍃璃以外のおんなをすきにはなれそうもない。もしも、祥子がおれに告白でもしてきたら、おれはどうすればいいのだ」


「そんなことは亳杓、あなたが自分で考えて」


「え?アドバイスなどはないのか?」


「だって、わたしたちの関係は、もとのひみつの関係に戻ったのよ?訓練しなさい。わたしがすきなら、優しさを捨てる覚悟をするの」


「…優しさを捨てる覚悟…。最近は、なるべくちゃんと断っているではないか。祥子をあんな風に煽ってまで、おれに告白させるのはさすがにやりすぎではないのか?」


「そうね。でも、それを断れるか、わたしは見てみたいの」


「君は本当に歪んでいるな…」


「嫌いになった?」


「なぜだろうか…ますます魅力的に思えてしまう…」



★★★★★



「どうしよう…。䍃璃は、ああ言うけど、わたしなんて、亳杓はどうせ友達…いや、それ以下かな?…望みないよな…」


䍃璃の悪戯に、まんまと悩まされている祥子。可哀想である。しかし、䍃璃はそう思っていない。䍃璃も䍃璃で、祥子に嫉妬していた。亳杓を、くん付けしないのは祥子だけだし、いつもお節介を焼いて来るし、亳杓がすきなのはあからさま。


説明するのが遅れたが、祥子は、それなりに美人だ。それに、ツンケンキャラの䍃璃と違い、いじめに遭っていた経験があったとはいえ、明るく、元気な愛されキャラだ。


幼い頃から、もう天才だった䍃璃には、その普通が、とても羨ましかった。その祥子に、なんとしても、勉強以外でも勝たなければいけない。モテなくてはならない。愛されなければならない。本当は、祥子のように明るい自分も、学校のみんなにも見せたい。そんなジレンマの中にいた。


だから、亳杓が自分を助けてくれた時、もうこの人だけは離さない…そう思った。そして、亳杓にも、そう思っていてもらいたかった。



そう。䍃璃も、自信がない。嫉妬もする。そんな、ただのおんなのこには違いないのだ。



祥子は、そんな䍃璃の心を、なんとなく察していたのかも知れない。だから、䍃璃を、様付けしなかったのだ。きっと、友達も欲しいだろう。何でも話せる友達が…と。そんな祥子の優しさが、䍃璃は怖かった。この優しさは、きっと亳杓に似ている。もしも、自分が存在しなかったら、亳杓が選ぶのは、きっと祥子だ。



䍃璃は、祥子を煽ったんじゃない。を、煽ったのだ。

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