もうひとりの年下の彼女 🦗

上月くるを

もうひとりの年下の彼女 🦗





 思いもよらないときに、思いもよらない方から、思いもよらなかった深い悲しみを聞かされてしまった衝撃でぎゅっと胸がしめつけられ、心身がしくしく痛むのです。


 なぜって、童女のように泣きじゃくるその人の、いままでもこれからも滾々と湧きつづけるであろう心の泉がどんなに澄んでいるか、その色まで見えてしまいそうで。


 部外者にはなにもできないけど、いや、部外者だからこそ、積年の堪えがたい想いを率直に打ち明ける気になったのでしょうけど、気の利いた慰めひとつ言えず……。


 


      💧



 

 もう若くはない年齢なのだから、鎧を纏い上辺を取り繕おうと思えば十分にできるのでしょうけど、そうはせずに、正直な悲しみを吐露してほろほろ泣いていた……。


 無防備なすがたが愛しく可愛く、大丈夫よ、薄い背をさすってあげたかったけど、いろいろな立場の人がいるところではそれも憚られ、ただ聴いているしかなかった。


 華奢な身を絞って泣きじゃくる年下の痛みをほんの少しでもやわらげてあげることすらできない身が情けなくて、申し訳なくて、自分の安逸がいたたまれないのです。




      🦩




 友人の知り合いという遠い立場ゆえ、おそらく再会の機会はないと思われる女性をここまで気にかけている自分が不思議だが、これもまた多生の縁のひとつだろうか。


 何十年もの交流を重ねた友人たちを軽く凌ぐ強烈な印象を残した、むすめのような年齢の人の後半生の幸せを真剣に祈っている自分を、もうひとりの自分が見ている。


 環境や条件を選ぶ自由も与えられずこの世に生を享けた偶然から始まる生命の旅。

 その重さから解放される選択肢の手がかりのいくつかにも遠い思いを馳せてみる。




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もうひとりの年下の彼女 🦗 上月くるを @kurutan

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