勝利を贈りたい人
羽間慧
そんなこんなで出来上がりました
私が勝手に書いている二次創作を、宇部さまが番外編とおっしゃってくださり、リレー小説化しているこの頃です。幸せのループは燃料があれば永遠に続くらしいですね。
今回は「なんやかんやで!~両片想いの南城矢萩と神田夜宵をどうにかくっつけたいハッピーエンド請負人・遠藤初陽の奔走~」
https://kakuyomu.jp/works/16817330651605896697
に出てくるあの二人の二次創作です。本編未読の方はぜひ、原作へ向かわれてください!
■□■□
選手権を明日に控えたサッカー部は、最後の練習を終えた。普段より日は高く、ほかの部活生も多く残る。カンバスやカメラ、トロンボーンが渡り廊下で技を磨いていた。
「
マネージャーは飲み物とプロテインバーを村井に渡した。ここは男子高。中性的な容姿をしていない限り、女子マネージャーと見紛うことはない。だが、俯いて渡す光景は、恋する乙女さながらだった。
「村井は受け取れないぞ。……っても、一年生は知らないか」
村井と同期の部員が止めると、マネージャーは涙目になった。
「はっはー! 疲れがゼロになった。ありがとう、マネージャー!」
にっと笑う村井に、マネージャーは拳を握りしめた。
「村井先輩! 全国行けたらお話ししたいことが」
「きみの応援は感謝する。だが、俺にはもう先約があるんだ」
「つ、付き合っている方、いるんですか」
村井はたくましい胸をさらに強調させた。
「可愛いいぞぅ! 俺のハムスターは!」
マネージャーは、飼っているハムスターにぞっこんだと思ったらしい。動物好きの先輩はずるいと頬を赤らめている。
事情を知っている部員が、紛らわしい言い方をするなとたしなめる前に、村井は校舎へ走り出した。
「おおっと? たった今、のっぴきならない急用ができた! 暇をもらうぞぅ!」
突進する村井に危険を感じた物体が、身を翻した。何かがきらりと光る。
「ご愁傷さま、
合掌する二年生らの囁きを、マネージャーは聞こえていなかった。
「待たんか、
「やだ。待ってやんない! 俺を追いかける時間があったら、部活に戻りなよ。三年生の先輩より早く帰ってどうするの」
写真部とサッカー部の脚力の差は明らかだ。村井は紺野の腕を引き寄せる。
「泣いていたのか?」
「は? 泣いてなんかないし!
襟を掴みかかった紺野の頬を、村井は撫でた。膨れた頬を宥めるように。
「俺を甘やかすなぁ! 大事な試合前なのに、村ちゃんにひどいことを言うかもしれないんだぞ!」
「全部言ったらスッキリするぞぉ! 俺が何でも受け止めてやる! 遠慮は無用だ!」
紺野は軽く鼻をすすり、村井の肩をこついた。
「マネージャーにヘラヘラして馬鹿じゃないの。あんな下心のある奴、無視しとけばいいのに。期待させるようなこと言っちゃってさ。村ちゃんは人がよすぎるよ。ストーカー化したら、俺が守れないじゃん」
「那由多が守ってくれるのか?」
「当然でしょ。俺は村ちゃんの……」
誰が通り過ぎるか分からない廊下で、紺野は唇の動きだけでセリフを紡いだ。村井は得意げに笑い、紺野の胸ポケットに視線を落とした。
「糸くずか?」
「馬鹿っ。違うから離せ、この馬鹿力!」
ひょいと持ち上げられたのは、糸ではなくミサンガだった。水色と白で編まれ、いびつではあるものの村井南雲と読める。
「上手くできなかったからゴミなの。こんなの渡したら、村ちゃんが負けちゃう……!」
「俺のために作ってくれたのか? だったら、なおさら捨てられないな! 那由多、ありがとう!」
わしゃわしゃと頭を撫でられた紺野は、悔しそうに見上げた。
「全国行けなかったら、口聞いてやんないからね!」
「だはは。OBの激励より血がたぎるなぁ!」
うっかり窒息死させないように、村井はハムスターを抱きしめた。
勝利を贈りたい人 羽間慧 @hazamakei
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