幼なじみのオトコのコ

西しまこ

第1話

 あたしはね、すぐ分かったんだ。

 あ、タカユキくんだって。

 嬉しくてすぐに「タカユキくん、久しぶりだね!」って声をかけたんだ。なのに、タカユキったら、「あ、う、うん、久しぶりだね!」って言ったくせに、実はあたしのこと、全然覚えていないの! 

 ……あたし、哀しくなっちゃったんだ。


 タカユキとは幼稚園がいっしょだった。

 あたし、男の子たちによくいじめられていて、幼稚園行くの、嫌だった。

 でもある日、タカユキがあたしのことをかばってくれたの。髪の毛ひっぱてた男の子に対して「やめろよ!」って言ってくれたの。……そのせいで、タカユキったら、その子に蹴られたりしたけど。でも「だいじょうぶ?」って言ってくれたあの顔。あたし忘れないんだ。幼稚園ではいつもいっしょに遊んだし、幼稚園帰りに公園で毎日いっしょに遊んだ。なのに。


「ぜーんぜん覚えていないなんて」あたしは溜め息をついた。

「モモコ、はい」

 タカユキがアイスラテを買って来てくれた。

 タカユキは優しいんだよ。ヒールの高い靴を履いてきちゃって、ちょっと足が痛いなあって思っていたら、「お茶飲む?」って言ってくれたの。それから、座る場所をすぐに見つけてくれて、「モモコは座っていていいよ。僕が買ってくるから。何がいい?」って買って来てくれるの。あたしが足痛いって、分かってくれているんだよね。

「ありがと、タカユキ」あたしは精一杯の笑顔で応えた。


 タカユキ、大好き。タカユキはあたしのこと、どう思っているんだろう?

 映画観る? って言われて、素直に「観る!」って言えないあたし。「高山くんにも誘われているんだよね」なんて、なんで言っちゃったんだろう? 高山くんと行く気なんて、全然ないのに。ああ、もう!

「高山と行くんだ」なんて、タカユキが言う。違う違う、行く気なんて、ない!

「誘われてるって言っただけじゃない!」あたしは自分に腹を立てながら、アイスラテを一気飲みして、容器をゴミ箱に捨てに行った。……足、痛い。


「モモコ」タカユキはすぐに追いかけてきてくれる。あたしは泣きそうになりながら、「あたし、映画行く」と言った。タカユキは「足、大丈夫? 映画なら座っていられるからいいね」なんて言ってくれて、あたしは涙が出そうだった。


 映画は楽しかった! 映画って没入感がいいよね。あたしは手に汗を握って、集中して映画を観た。あの伏線はあそこで回収されているんだ!

「おもしろかったね!」とタカユキに言うと、「うん、おもしろかった」と答えてくれたので、「どこがよかった?」と聞いたら、なんか変な答え。あ、観てなかったんだ! って、すぐに分かっちゃった。……あたしに合わせて観てくれたのかなって思ったら哀しくなって「好きじゃないなら、そう言えばいいじゃない!」って言ってしまう。違う、そういうことが言いたいんじゃなくて。


 あたしはタカユキから離れながら、どうしても出てくる涙を手でこすった。アイメイク、とれてブスになっちゃう。でも。

 あたし、もっと素直になりたい。でも素直になれない。

 タカユキが来る気配がする。もう、逃げたくなっちゃうの。好きなのに。



   了



一話完結です。

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☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

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