なんだかんだ愛

石動 朔

おys、、Zz



『今日も空は恐々な快晴、寝ている君たちはコケの歌声に感化されてきっと目を覚ますことでしょう。それでは、体操を始めます。』



 そんなアナウンスと共に、俺の朝は始まる。

「起きて、朝だよ。」

「体操をしなきゃ、体操を。」

 そう言いながら支給された布団の中で動いているセンゴヒャクニジュウニ、略してマゼラン。

「早く早く。カミサマさんが怒って、ヒンガシの袋送りにされちゃうよ。」

「あ、そうだ、そうだった。缶詰めはやだ、缶詰は。」

 マゼランは勢い良くふわふわに立つと、まるでカラカサドリのように左に傾いては後ろに傾いて平衡感覚を取り戻し、勢い良くお部屋を出る。

「ほら、イグナチオ、早く早く。」

 今度は俺が呼ばれる番になってしまった。


 そして、今日のおもてなしが発表された。


「今日はセンナナヒャクゼロイチのところだね。」

「センナナヒャクゼロイチは、袋送りは免れたものの、ゴミになったらしいね。ゴミに。」

「ゴミならまだいいじゃないか。俺の隣のサンサンは袋送りの中のアーサーだったらしいぞ。」

 エスカレーターが最後まで届く。

 マゼランはずぅっと後ろを向いていたから、また、カラカサドリのように左に傾いては後ろに傾いて平衡感覚を取り戻し、勢い良く跳びあがる。



 センナナヒャクゼロイチの部屋の前に、前髪で上唇が見えない小さな子が立っている。

「夜の目覚まし時計は鮮やかに壊れて中から一羽のカラカサドリ。」俺は言う。

「朝の目覚まし時計は静かに壊れて中から一羽のカラカサドリ。」マゼランが言う。

「一羽のカラカサドリ。それは?」

「「ろくでなし!」」



 部屋の鍵を開けて中に入ると、それはもう耳も鼻も塞ぎたくなるくらいのもので、かろうじて開けた目の視界に捉えたのだった。一枚のレシートが落ちてあった。

「センナナヒャクゼロイチは確か掃除当番だったよね、センナナヒャクゼロイチは。」

 マゼランはレシートを床に押し付けて、作業を始める。

「なにも、センナナヒャクゼロイチは自分の行いを恥ずかしがってモチと化したとか。」

「だからゴミになったのね、ゴミに。」

 手持ちのアイロンが威勢の良い蒸気を巻き上げて、レシートを包み込む。



『ブランチも空はぶらぶら快晴、寝ている君たちはパンの音頭で目を覚ますことでしょう。それでは、体操を始めます。』

 


 たくさんのカートにセンナナヒャクゼロイチのそれを詰め込み、洗面台へ流し込む。

 一仕事終えた俺たちは、せっかくだからとここら辺では有名なウミモドキへ向かった。煌々とそびえ立つウミモドキは、ドクンドクンと波打つ。

「ねぇ。」

 俺は隣にぴっとりとくっつくマゼランに向けて言葉を放つ。

「あ、彗星が食べた。彗星が。」

 マゼランは空を見て言う。

「この空は空じゃないらしいよ。俺の隣の隣のサンジュウニが言ってたんだ。空の先にはカミサマさんがたくさんいて、さらにその空の先にはヒトサマさんがたくさんいるらしいよ。」

 マゼランがまたもやカラカサドリのように左に傾いては後ろに傾いて平衡感覚を取り戻し、勢い良く後ろへ倒れ込む。俺もそれに倣ってカラカサドリのように(中略)倒れ込んだ。

 するとマゼランはモチが膨れ上がるように頬を膨らませてから、今度は真珠のようにやんわりと頬を膨らませて、最後にトノサマのように面白おかしく頬を膨らませて、俺の目を奪ってくる。

「今は、私が隣。私が。」

 そう言ってマゼランは俺のおでこに唇を添えて、離れる。

「私とイグナチオの間には、12ある。私とイグナチオの間には。」

「そのうちの二つは袋送り。」

 ウミモドキがハッピャクと89時間ぶりに欠伸を披露して。

「そのうちの四つはゴミ。」

 彗星が今季347度目の食事をする。

「残りの六つは、ヤマの手前を知りたくて、二つずつ交信しに行った。」


「センナナヒャクゼロイチは、モチになったんだよね。モチに。」

「そうだよ。」

「じゃあ、私たちもおでかけする?私たちも。」

「いいのかい?俺とおでかけして。」

「カボチャとデートをする次ぐらいに、いいと思ってる。カボチャとデートをする次ぐらいに。」

「それは光栄だな。」


『お昼も空はお久しぶりに快晴、寝ている君たちはすずめの行水で目を覚ますことでしょう。それでは、体操を始めます。』


「それで、どうすればおでかけできるの?それで。」

「それはね。」

 俺たちは萎んだウミモドキを横目に、手の指を交差に組んで第二関節を折り曲げ力を入れ合う。明後日を告げるクジラが俺たちを見て泣きながら笑っているような気がした。

「目の裏にカラカサドリを描いて、虚無を武器にして殺すんだ。そうすればきっと、あっというまに空の上にいるはずだよ。」

 そう言うとマゼランは、くすっと笑って、白い歯をほんの少しだけ露わにした後、きゅっと口をつぐむ。

「空の上に行ったら、一人?空の上に。」

 手にかける力加減が不釣り合いに、なる。不格好は嫌いだから、俺も負けじと力を入れる。

「あぁ、きっと二人さ。二人でカミサマさんに歓迎されて、あの赤いジュースを手に収まらないくらいもらえるんだ。そして君は本当にマゼランになって、俺は彗星と会話ができる。きっと、そうなんだよ。」

 マゼランが足を止める。

 俺も足を止める。

 マゼランの履いているズボンが、風に動じずしゃきっとしている。

 俺の履いているスカートが、風になびいてゆらゆらとしている。

「じゃあ、目を閉じるね。目を。」

「ん。」

「手を、繋いでも良い?手を。」

「聞かなくてもいいのに。」

 眼の奥に揺らめく青色をペンギンのエビ色が染めてあげていく。

 コツン、と、おでこが合わさる音がした気がする。

「またね。」

「うん、また。」


 マゼランとなら、カミサマさんでもヒトサマさんだとしても何とかなる気がして止まなかった。

 少しの空気のひりつき、ワタアメの匂いを感じる黄昏時。俺とマゼランは外の世界へとおでかけをしてみようと、おys。





『黄昏も空は削がれるように快晴、寝ている君たちは言葉の裏をなぞられて目を覚ますでしょう。それでは、体操を始めます。』


、、Zz




 


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なんだかんだ愛 石動 朔 @sunameri3

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