帰ってきた T-rex.
高黄森哉
今蘇る
「あのティラノサウルスを復活させたというのは本当ですか」
大学生 I は、T 博士に尋ねた。
「ええ。本当です」
「でもどうやって」
博士はニヤリと笑うと、拳を前に突き出し、そして学生の目の前で開いた。手の平には琥珀が載っていた。蜂蜜の色彩をした樹液製の宝石だ。中にはお腹をまるで臨月にさせた巨大な蚊の成体が封入されている。
「蚊が吸った血液から遺伝子情報を取り出したのですね」
「うむ。部分的に違う。この昆虫の腹には精液が詰まっていた。どうも、この蚊は恐竜の睾丸から精液を啜る生態だったらしい」
大学生はひいと呻き股間を押さえた。そんな巨大な注射針みたいな昆虫に、金玉を刺されたら失神ものである。
「遺伝子情報を抽出できたのは僥倖であった。なぜなら、劣化して壊れてしまうからだ」
T 氏は言った。
「それで、恐竜は復活させるのですか。もし復活させるなら環境への負担などを考えなければなりませんが」
「我々が恐竜を復活させることの倫理性や道徳性について論じる必要はない。なぜなら、恐竜は既に復活しているからだ。裏の庭を見てみよう」
そこにはティラノサウルスティレックスがいた。もう一度言う、ティラノサウルスティレックスだ。
「ひどく弱っていますね」
その恐竜はとてもなよなよしていた。姿かたちは図鑑で見た、巨大なイグアナであるのに、その立ち振る舞いは非常によそよそしく、まるでペットショップの犬のようである。
「気温が寒いからじゃろ」
「あ、烏が恐竜を虐めている」
恐竜は烏に体を突かれる。目を突かれ悶絶し股を見せると、烏はそこへめがけ突進。金玉を貫かれ、さらにほじくり出され、その上喰われてしまった。
「博士、いいのですか」
「これも自然の摂理じゃ」
去勢されたティラノサウルスはさらになよなよしていた。烏になお虐められ、使い物にならない委縮したペニスから失禁していた。そのペニスも鳥が啄んで食べてしまった。
「やはり、絶滅した動物は絶滅したなりの弱さがあるのじゃな。対応できなかった動物が、生き馬の目を抜く世界についていけるはずがない。それは人間だって同じじゃよ」
ティラノサウルスは翌朝には死んでしまった。肋骨が露出し、内臓は引きずり出され、烏たちは彼の眼球で遊んでいた。博士はふと、鳥は恐竜の子孫だったな、と思い出した。
帰ってきた T-rex. 高黄森哉 @kamikawa2001
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