その後
最終話 バーメイドを待つ人達
「アル、お姉ちゃんもう寝るから戸締りお願いね」
「うん分かった」
あれから四年。ロアお姉ちゃんは僕らのお店に戻ってくる事はなかった。僕らの食堂はロアお姉ちゃんに教えてもらった料理にお姉ちゃんがより近づけて大盛況だ。ロアお姉ちゃんが帰ってこなくなった次の日、信じられない事にエリザベルト王が自ら僕らの食堂にやってきた。
突然の事にお姉ちゃんは大慌て、その日定休日にしてエリザベルト王の話を聞いた。ロアお姉ちゃんはエリザベルト王からの依頼で遠い国に 行ったと言う。多分、嘘だ。お姉ちゃんが大事にしていた道具を僕に残していくわけがない。
とは言え平民である僕が何かを調べることなんてできない。できるとすれば僕はバーテンダーになる事。世界中のお客さんを相手にして、ロアお姉ちゃんの行方を知る人を待つしかない。昼はお姉ちゃんが食堂を、夜は僕がショットバーという酒場を経営する。
従業員を雇えるようになり、前の十倍以上の稼ぎになったのに、お姉ちゃんがこの場所から食堂を離れないのは多分、お姉ちゃんもロアお姉ちゃんを待っているんだと思う。
「焼きワイン、ザクロシロップ、ベコポンジュース」
王宮から毎月差し入れされる焼きワインとベコポンジュースをシェイカーに入れてロアお姉ちゃんに言われた通りのスタイルで、あれから何千回振っただろう。子供の頃の僕じゃなく、今なら大人としてロアお姉ちゃんは僕の技量を褒めてくれるだろうか?
バースプーンを使ってザクロシロップをカクテルに流していく。僕が最初に覚えたカクテルにして最も得意なカクテル。
「お待たせしました。エリザベルト・サンセットです」
ロアお姉ちゃん、貴女は今どこにいるんですか? この地の先にいるんでしょうか? それともこの空の果て? 海の向こう? 僕の作るカクテルを飲みにきてください。
「マスター・アル。いつも新顔のお客さんに聞くロアさんって一体どんな人だったんですか? ノビスの街の人達はよく知ってるみたいだけど」
「うん、私も気になる! どんな女の子からのお誘いにも乗ってくれないので、マスターが気にしている女の人ってどんな綺麗な人なんですか?」
時折こんな風に聞かれることがある。そういう時、僕はお客様にこう言うのだ。ロアお姉ちゃんと同じ微笑で微笑んで、
「それじゃあお話しましょう。バーメイドのおもてなしについて。皆さん、お飲み物のご注文は宜しいですか?」
異世界バーメイドのおもてなし アヌビス兄さん @sesyato
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