いいわけを考える
鳴代由
いいわけ
私は思いついた。思いついてしまった。これはひらめきだ。試行錯誤なんかでは得られない、今の私にとって最善の選択。思わず声が漏れ出てしまいそうな、思わず表情が恍惚としてしまうような。このひらめきを現実にしてしまえたら、と考えれば、それらが出てくるのはごく当たり前のことだった。
私は数日前から悩んでいた。友人のことで、だ。その友人は、私にとって憧れの友人だった。尊敬もしていた。誰に対しても優しくて、明るくて、朗らかで。彼女を見ていると、不思議とこちらの心まで暖かくなっていった。
私が彼女の優しさに触れたのはなんてことない、日常での出来事だ。
私は花が好きだった。部屋にはいくつも花が飾ってあるくらいに。その花が枯れる頃には、栞にしてずっと持っていられるようにする。
あの日、特にお気に入りの栞を一枚、学校のどこかで落としてしまった。どこを探してもない、先生に聞いても、クラスメイトに聞いても見つからなかった栞。それを彼女が見つけてくれた。彼女とは初めて話したのに、彼女は私が栞を大切に持っていたということを知っていた。そして栞を見て、いいね、と微笑んでくれた。
ああ、優しいなぁ、とそう思った。その暖かさを、ずっと持っていたくなったのだ。そうなってしまったのだ。
──でも、本当にそれでいいのだろうか。私の頭に、少しの疑問が浮かぶ。私がこの選択を取ったら、彼女はどう思うだろう。優しい彼女なら、笑って許してくれるだろうか。
もし、彼女が嫌だと言ったら、そのときは……
「私は壊れてしまうな……」
私は否定されたくない。大好きな友達の彼女にならなおさらだ。それなら、もう少し考えてみてもいいだろうか。
その優しい笑顔を私にだけ向けていてほしいなんて、強欲すぎたかもしれない。彼女を私の元に閉じ込めてしまおうなんて、少しやりすぎかもしれない。だから、私は考える。彼女が許してくれそうな言い訳を。彼女が納得してくれそうな、良い理由を。
いいわけを考える 鳴代由 @nari_shiro26
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