18冊目 『山怪 山人が語る不思議な話』

『山怪 山人が語る不思議な話』

田中 康弘 著 ヤマケイ文庫 出版


 2024/6/3読了


 本屋さんで見つけ、惹きつけられるように購入した本です。


 著者が実際に見聞きした、山での不思議な体験を集めた作品です。マタギをはじめ、山林で働く人々、山の中にある集落で暮らす人々の話が収録されています。


 私、基本読書が苦手なんですよ。どんなに面白い作品でも、なかなか読まない。「今から一時間は読書時間」と決めないと、本に手が伸びません。


 しかし、本書は自分でもビックリするくらい速く読み進めてしまいました。暇があったら、本書を手にしてましたね。「読み過ぎだからいったん休憩」と自分にストップを掛けるくらい、惹きつけられてしまいました。


 ショートショートのようにひとつひとつの話が短いので、読みやすいというのもあります。実際に見聞きした話であり、しかもそんなに昔ではないんです。祖父母から聞いた数十年前の話から、若い人が体験したつい最近の話まであります。日本であった話ですから、知っている地名が出てきて、ドキッとすることも。


 扱っている話もさまざまです。狐火や人魂といわれる光る玉を見た。狐に化かされた。狸のいたずら。大蛇。見たことのない生き物。謎の足音。異界に迷い込む。心霊体験。神隠し。臨死体験。あれはUFO?


 狐に化かされて裸にさせられたというクスッと笑えるものから、歩き慣れた山なのに場所がわからなくて遭難しかけたというヒヤッとするもの。あるいは、帰らぬ人となったというホラーに近いものまで。


 また、本書の特徴は、実名が公表されているんです。一部、生死を扱ったものや本人の希望で非公表の話もありますが、実際に体験した人や場所がわかるので、よりリアルさが伝わってきます。なかには、幽霊なんて全然信じていなくて、山で怖い思いをしたことはないと断言する人もいました。けれども、話をしていくうちに、「そういえば」と不思議な体験談が出てくるのが面白いです。


 著者は、長年マタギを中心に、山関係や狩猟関係の取材をしてきたフリーカメラマンだそうです。取材中、山と関わる人々から不思議な話をときおり聞いていました。民話や伝承のような形にはなっていない、それでも人々の中に潜んでいる山の「語り」。現代では、受け継がれることもなく、形にもならずに消えていってしまう。そんな「語り」に危機感を覚え、本格的な取材を始めて作られた本です。


 「現代版遠野物語」として、評価されているとか。人を怖がらせるフィクションホラーとはまた異なる、不気味で神秘的で不思議な、身近な山の世界です。


 今回も、興味をそそる読書体験でした。




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紙の本、読んでないなぁ。 宮草はつか @miyakusa

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