勝利に酔って - いいわけ [KAC20237]

蒼井アリス

勝利に酔って - いいわけ [KAC20237]


 七つの大罪全部盛りゲス野郎との裁判は、当然涼子たちの勝訴だった。

 事務所に戻ってきた涼子たちは祝宴とまでは言えないが簡単なつまみと出前の寿司、それと紙コップに注がれたビールで勝利を祝っていた。


「あいつのプライド叩き潰してやったわ。世の中甘くないことを思い知るがいい!」

 いつもの涼子節が事務所内に響き渡る。

「いつにも増してご機嫌ですね、涼子さん」と紙コップからビールを飲みながら少し赤い顔をした洋介が言う。

「クライアントの利益を最大限に守り、社会のゴミを駆逐したのよ。ご機嫌にもなるでしょ」

 涼子も紙コップからビールを飲み、満面の笑みを浮かべている。


 気が強く男勝りの涼子だが、黙って微笑んでいれば誰もが振り返る絶世の美女である。ただ、口を開けば辛辣な言葉や敵を作ることを恐れず忖度のない発言をするため、容姿にだけ惹かれて近寄ってきた人たちはあっという間に逃げてゆく。涼子と知り合って間もない頃、見た目だけに惹かれて近寄ってくる男たちを追い払うためにわざと辛辣な発言をしているのかと洋介は思っていたが、実際はそれが涼子の本質で、案外不器用なだけだと気づくのに時間はかからなかった。人間関係における駆け引きが面倒だと思っている洋介にとって涼子との関係は居心地がいいものなのだ。


「お寿司も食べたし、勝利の美酒も堪能した。私そろそろ帰るわ」

 そう言うと、涼子はバッグを肩にかけ猛と洋介に手を振りながら「戸締まりよろしくね~」と事務所を出ていった。


「コーヒーでも淹れるか」と洋介が立ち上がって小さな給湯室へと向かう。

 その背中を黙って目で追う猛。


 両手にコーヒーの入ったマグカップを持って洋介がソファに戻ってきた。

 洋介がカップの一つを猛に差し出し、猛がそれを静かに受け取る。

 猛は受け取ったカップをそっとデーブルの上に置き、洋介の手の中のカップを取り上げ、同じようにテーブルの上に置く。


 コーヒーの香りで満たされた部屋で、二人の男が無言で見つめ合う。

 猛が洋介のうなじにスルリと手をかけ引き寄せる。二人の顔が近づき、唇が重なる。

 洋介の腕が猛の大きな背中に回る。互いの鼓動と体温を感じながらの口づけ。


「よし! 今夜はオールナイトで俺の愛をお前に証明してやる! いいな、洋介!」

ないだろ! 俺の身体がぶっ壊れる」

 そう言いながら、今度は洋介の方から口づけた。

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勝利に酔って - いいわけ [KAC20237] 蒼井アリス @kaoruholly

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