あの星に手が届くまで

松丘 凪沙

織姫と彦星


「昨夜は、望遠鏡で夏の大三角を見ていました」


 三島星矢は、昨日から今日にかけての自分の行動を滔々と話し始めた。


「はくちょう座のデネブ、こと座のベガ、わし座のアルタイル。一番近いアルタイルでもおよそ16光年、一番遠いデネブになるとおよそ1400光年離れています。1400年前に恒星から放たれた光が、この地球まで届き、その光を凹型の鏡で反射させ、レンズを通して私達の眼球に入り、水晶体を通して像を結ぶ。こうした途方もない過程を経て私達は星の光を観測できるのです。どう頑張っても手の届かないあの星に触れたい。そう思うのは人類共通の夢でしょう?」


 三島はこちらの返答など待たずに一方的に喋り続ける。


「ベガとアルタイル……織姫と彦星は一年に一度しか会わせてもらえないと言います。先人たちはあの夜空の星にストーリーを見いだしたのです」


「そしてある日、私はあの電車内で彼女と出会ったのです。一目見た瞬間、彼女が私にとっての織姫だと確信しました。」


「アルタイルとベガの距離はおよそ15光年、後から知りましたが彼女も高校一年生で15歳。運命だと思いました。彼女は私と出会うために15年前、この世に生を受けたのです」


「最初のうちは彼女の姿を遠巻きに見つめるだけでした。しかし、手を伸ばせば届く距離にあるというのがよくなかった。一年経ち、二年経って彼女は三年生になっていた。就職先、進学先によっては来年からはもう会えなくなるかもしれない。」




「だから私は、あの女子高生のスカートの中へ手を入れ、お尻を覆い隠す三角形に触れたのです。私の手という彦星と、彼女のパンツという織姫が、山手線という高速で公転する電車内で運命的な出会いを果たしたのです」


 三島星矢の取り調べはとてもスムーズに進んだ。本人は素直に全てを自供したために執行猶予が付いた。もちろん被害者への接近禁止令もセットだったが。


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あの星に手が届くまで 松丘 凪沙 @nagisamatsuoka

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