いい沸け
藤泉都理
いい沸け
いい沸け。
造語。
いい具合に場が熱くなっている状況を指す。
現在のように。
「おらおら」
「おうおう」
黒の剣士の弟子でもある白の剣士と、白の剣士の師匠でもある黒の剣士は互いの手元を見た。
真っ二つに斬って斬られたそれぞれの愛刀、水仙の剣と矢車菊の剣を。
柄を握る手と、
剝き出しの刃である上身を握る手から滴る血を。
「おいおい。顔がなまっちろいぜ、莫迦師匠。早く家に帰っておねんねした方がいいんじゃねえか?」
「っは。そっくりそのまま返すぜ、莫迦弟子。あ~ん痛いよ~って泣きながら病院に行きやがれ」
「「誰がするか!!!」」
柄と共に上身を強く握った結果、さらに流れる血の量が増した。
一刻も早く治療をしなければ本当にお陀仏になるほどに危険な状況だった。
けれど、白の剣士も黒の剣士も愛刀を離さなかった。
互いの血の匂いがその場に充満していた。
「あーあーくせえな。くせえくせえ。塩と油の摂り過ぎだぜ」
「あーあーくさいな。くさいくさい。糖分の摂り過ぎだ」
「あの~」
「「ああん」」
白の剣士と黒の剣士に睨まれた魔王は小さく悲鳴を上げながらも、一撮みの勇気を振り絞って行っていいですかと尋ねた。
「「さっさと行け。そんでもう侵略なんて考えんなよ」」
「はいはい勿論でございます~」
魔王はすたこらさっさと逃げた。
白の剣士と黒の剣士が互いに闘い合って弱まった時に止めを刺せばいいのではないですか。なんて、共に逃げる部下が耳打ちしたとしても逃げを選んだ。
「あなたそれでも魔王ですか?」
「あ~そうだよ魔王だよだから倒されるまではちゃんとやったでしょうが運よく命拾いしたでしょうがこれからは命の危機に常時さらされない穏やかな日を過ごすんだよほらさっさとしなさいよあの剣闘大莫迦二人に巻き込まれる前に逃げるんだよ」
「え~~~」
「そんなに不満ならあなたが行きなさいよ」
「いえ。魔王が決めた事なら従うまでです」
こくり。力強く頷いた魔王と部下はすたこらさっさと逃げた。
それから一日後。
白の剣士と黒の剣士は魔法使いに抑えられるまで闘い続けた。
理由を問えば、魔王が弱すぎて面白くなかったからと返されて、魔王の代わりに封印の術を施されそうになったとかならなかったとか。
「「被害を出していないのに!!!つーか星を救ったのに!!!」」
「被害は出していなくても、寄れば触ればすぐに剣を抜くあなたたちに遭遇した人の寿命が縮むので。じゃあさようなら」
「「え?え?ちょ!!!」」
封印の術を施されそうになったとかならなかったとか。
(2023.3.16)
いい沸け 藤泉都理 @fujitori
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