「今、昼休憩中なので、何も見ていません」

CHOPI

「今、昼休憩中なので、何も見ていません」

 昼休み、昼食をとりながらパソコンをいじっていると、メールの通知が一通届いた。誰からだろうか、と思って画面を開き、思わず「げっ」という変な声が出る。そこに表示されていた名前は、入社以来割と好きになれない先輩からだった。


 あまり見たくは無いけれど、急ぎだったらすぐに返事を返さないと、それはそれでめんどくさいこの先輩。「昼休みなのに……」とは思いつつ、メールの内容を確認してみた。開いたメール画面には、「お疲れさま」から始まる業務的な文章と数点の添付資料。今度、先輩と担当することになった案件についての業務連絡だった。


 ――俺は、自分のやるべきことは、ちゃんとやっているからな


 言外に、そういうニュアンスが含まれているように感じる。『そういうとこだよ』と一人こぼして、ため息をつきながらパソコンの画面を閉じた。まだ昼休憩の時間内だ、今は見なかったことに、と自分のためにいいわけをした。っていうか、昼休憩中に送ってくるなよな、とさえ思う。社内のホワイトボードにでかでかと記入した「昼休憩」の三文字が機能していないことに腹が立った。


「何のための休憩入りの報告なんだか」

 せっかくの休憩時間にイライラして、余計なエネルギーを使いたくはない。一人愚痴をこぼしつつ、ここは気分転換でもしてやろうと、そのまま財布を持って外に出た。


 うちの会社は所謂オフィス街の中にあるので、ありがたいことにランチに強いお店や喫茶店が近くに何店舗かある。今日は社食で済ましてしまったので、コーヒーだけ買いに行くか、とお気に入りのお店の方へ向かって歩みを進めた。


「いらっしゃいませー」

「コーヒーください」

「はーい」

 顔なじみになって久しい店員さんに、いつものようにコーヒーを頼む。何も言わずともテイクアウトで用意をしてくれるくらいの仲にはなっていて、今日も軽やかな手つきでコーヒーを淹れてくれる。

「お待たせしました」

「どーも」

 お会計をして店を出て、会社へと戻りながらコーヒーを啜る。深く香ばしい香りと、クセになるほろ苦い味に舌鼓を打つ。すると、さっきまで感じていたイライラが、少しずつ軽くなっていく。


「……はぁ……」

 つい先ほど、昼休みをいいわけにして、一度見て見ぬ振りしたメールの内容を思い返して、再びため息がこぼれた。……とはいえ、もう自分もいい大人。あの先輩のことは好きになれないけれど、それは今回の案件とは全く関係の無いことだ。それこそ、その仕事をやらないで良い理由いいわけになんてならない。


 ――ま、別に。どうにかなるでしょ


 そう自分自身に言い聞かせる。腕時計を見れば、もうすぐ終わる昼休憩の最後の数分だった。俺は一度立ち止まり、空を見上げた。そこで思いっきり深呼吸をして、昼休憩を締めくくったのだった。

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