花も恥じらう、いいわけ

eggy

 

 四階非常階段の踊り場から見下ろすと、真下では建物脇の細道に積雪が融けかけていた。

 白髪頭の作業服がそこから階段下を回り、倉庫に入っていく。

 鉄扉が閉じたところで、少し待ち。あたしは手摺り下に積もった雪に挿したスコップを捻った。一塊、二塊の雪が落下し、扉前に積み重なる。

 しばらくして、「あれ、開かない――誰か――」とくぐもった声、ドンドン、という鉄扉を叩く音がかすかに聞こえてきた。

 まあ今は朝方で気温が上がらなくても、この最近の陽気、午頃には融けて開くだろう。

 手摺り下に残る雪をならし、満足して、マンション屋内に戻る扉を開く。

 と、すぐの廊下に怖い顔の姉が立ちはだかっていた。こちらの手にしたスコップをひと睨みして、

「あんた、何してたの?」

 もうお馴染みの、詰問の声がかけられる。

 黙っていると、あたしを押し退けて扉を開いた。階段に出て音声を聴き、大方を察したようだ。

 あたしは外方を向き、口を尖らせる。

「だってだって、あの爺さんが悪いんだもん。いくら制服着てなかったからって、『おやボク、お使いかい』なんて。花も恥じらう女子中学生を、馬鹿にして」

 はああ、と姉はこれ見よがしに溜息をついた。

「管理人さんだよね、助けてこなくちゃ」

「だってだって、あいつが悪いんだもん。あたし悪くないもん」

「あんたねえ。近所の子たちには小さい頃から『復讐大魔王』なんて呼ばれて恐れられて。それでももう誰もちょっかい出さなくなっていたから、安心してたけど」

「あたしを怒らせる奴が悪い」

「はああ」

 踊り場を見回しながら、また溜息。

「確かにこの季節、雪が落ちたなんて偶然はありがちだし。何これ、しっかり雪をかいたスコップの痕消して証拠隠滅してるし」

「やるなら、完璧にしなきゃ」

「黙らっしゃい。もういい加減、子どもの悪戯じゃ通らないんだよ。春から高校生だっていうのに、あんた、そんなんでいいわけ?」

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花も恥じらう、いいわけ eggy @shkei

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