思いつきは良い訳ではないと思いながらも
麻木香豆
いいわけ
とある小説家は商店街の中にある喫茶店併設の本屋で本を買ったのち、店を出る。
「あの、落としましたよ」
家族連れの男が小説家の落とした紙を拾ってくれてのだ。
男は子供2人手を繋いだ妻に
「早く行くわよ」
と強い口調で言われ
「すいません、彩子さん」
とへこへこと店の中に。妻に尻敷かれる男の物語も良いな、と。
さらに歩いていくと子供たちが沢山いる。
「こらー! 待ちなさい!」
とベビーカーをひく女性。
「捕まえてみろ! 元警察官!」
「こら! 待ちなさい!」
小説家はその女性が元警察官であったのであろう過去はどんなふうに過ごしていたのか、その物語も悪くないとメモをした。
橋を渡っているとすれ違うモシャモシャ頭の髭面。ワイルドな出立ち。いろんな女性と関係を持つ色男……と想像は膨らむ。
そして目的の店の前。
男性同士のカップルが腕を組んで歩いてた。長身の柄シャツ着たピアスをつけてる男とスーツを着た眼鏡の低身長の男。
こんな対比のあるBLはよくあるあるだ。でも王道だから一般ウケするだろう。
店に入る。
「いらっしゃいませ、いつもの席ですね」
常連だからすぐ店員の女の子に顔も席も覚えられてすぐホットのカフェオレを出してくれた。
「それはなんとっ……!」
また今日もやってるのか。心霊系動画配信やってるあのトンチキ除霊師たち。依頼人も苦笑い。やたら声がうるさくて耳触りだが小説のいいネタになってる。
さっきのカップルは窓際の席に座り2人して見つめあって微笑んでる。今日はそちらの2人を観察するかな。
「お待たせしました」
目の前にスーツの女性が座った。
「先生、そろそろ新しい小説の企画案を」
担当さんにニコッと微笑まれ、さてどんな言い訳をしようか……。
するとこないだ夜道で見た大学生が入ってきた。そして思いついた。
「とある田舎者の大学生が上京して一年……」
言い訳を思いつくよりも物語を思いつく方が実に楽しい。
終
思いつきは良い訳ではないと思いながらも 麻木香豆 @hacchi3dayo
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