このままで、いいわけがない

味噌わさび

第1話

「……告白?」


 俺は思わず今一度聞き返してしまった。彼女は苦笑いしながら小さく頷く。


「あ、あはは……。うん。なんか、今日……されちゃって……」


 ……信じられなかった。なんだかんだで、彼女は俺の幼馴染で、誰かから告白されるなんて思ってもみなかった。


 しかし、よくよく考えてみれば、別にそんな保証はどこにもない。俺が単純にそう思いこんでいただけだ。


「あ、あぁ……。そ、そうなんだ……」


「えっと……どうすればいいかな?」


 彼女は俺にそう言ってきた。どうすればいい、だって?


 俺にわかるわけがない。そもそも、俺に答える権利があるのか?


 確かに俺は彼女の幼馴染ではあるが、彼女が告白されたことに対してとやかく云う権利なんてないのだから。


「あー……。いや、それは……お前の自由だと思うし……」


「え……。そうなの?」


「そ、そうだろ? え……。お前こそ、どうしたいの?」


 俺がそう言うと、彼女は黙ってしまった。


 なぜ、黙る? 俺が何か変なことを言っているだろうか? 告白されたのは彼女なのだ。それをどうするかも彼女の自由だろう。


「……あのさ。前から思ってたけど……君って『言い訳』ばっかりだよね」


「はぁ? なんだよ、いきなり……」


「……いつも大事な時に、自分には関係ないとか、自分のことじゃないから、とか……ずっとそんなことばかり言っていればでいいって思っているの?」


 そう言う彼女は、怒っていた。今まで見たことないくらいに俺は真正面から鋭い視線で睨みつけられる。


「……いや、でも、それは――」


「また『言い訳』しようとしてる……。もう……いいよ」


 そう言って彼女は俺に背を向ける。


 行ってしまう。彼女はきっと、告白を受けるつもりだ。


 そんなの……「良い訳」がない。このまま彼女を行かせてしまって「良い訳」がないのだ。


「待って!」


 思わず彼女の手を掴んでしまった。彼女は驚いた顔で俺を見ている。


「あ、えっと……、その……告白……断ってほしいんだけど……」


 俺がそう言うと彼女は薄っすらと笑みを浮かべる。


「どうして?」


「いや、その、だって……お前は俺の……幼馴染だし……」


 自分でも何を言っているのかわからなかったが、そう「言い訳」するしかなかった。


 彼女はしばらく無言で俺のことを見ていたが、不意に嬉しそうに笑った。


「え……。な、何?」


「フフッ……。ううん。今のは、良い『言い訳』だな、って」


 そう言って彼女は俺を安心させるように、両手で俺の手を掴んでくる。


「大丈夫だよ。最初から断るつもりだったんだ。だって、私は君の幼馴染だからね」


 彼女はそんな「言い訳」をして、ニッコリと俺に微笑んだのだった。

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