逢えないことの言い訳
蘇 陶華
第1話 酒涙雨で終わりにするつもり?
雨が激しく降り続け、波のように身体に吹き付ける風。雷は、激しく空をうち、まるで、屑花が、生まれてきた事を責めている様だった。
「だから・・・ずっと、眠っていれば良かったんだ」
屑花は、雨が顔にあたり、苦しく息ができない。今は、この苦しささえ、愛おしい。
「望んでいた訳でない」
生きる事も終わる事も、何一つ、望んでいなかった。朝、普通に目が覚め、朝食の為のお湯を沸かし、鶏を追いかけ、卵を摂る。当たり前の暮らしだったのに、彼女が、魔女の子だったという事で、全て変わってしまった。自分は、善良で居たかった。普通に、人を助け、情けをかけたかっただけなのに、自分に好意を持った異性が現れたせいで、嫉妬に火がついたせいで、全て変わってしまった。
「私は、こんな終わり方は、望んでいなかった」
屑花は絶叫した。叫ぶ口にも、雨が激しく叩きつける。跪いた両膝に、冷たく刺さるアスファルト。地面を叩きつけ、割れる指先。
「言い訳だよ。屑花。」
正面に立つ白夜狐。いや、柊雨は、冷たい雨の中でも、優しく温かい。
「僕らは、君を止めたかった。いや・・・僕は、止めたかったんだ。何としても」
柊雨は、片方だけに割れた面を外した。屑花と同じ、左右の瞳の色が異なる顔がそこにあった。
「僕も、言い訳していいかい」
柊雨は、雨に打たれる屑雨に、そっと傘を差し出し、立ち上がるように腕を差し出した。
「こうなる事は、わかっていた。もう、何年も前からね」
柊雨の目からは、雨粒なのか、涙なのか、わからない熱い物が流れていく。
「この言い訳が、通るなら、僕は、伝えたい」
雨の中に差し出した掌。雨粒が当たり、細かい霧となって消えていく。
「結果を変える自信はあった。何年もかけてやってきた君を元の姿に戻せるって。だけど、やはり、決められていた事は、僕の力では変えられなくて」
柊雨。なんて、哀しくポツポツと話すのだろう。屑花もキリアスも、何も、変わらない普通の日々を求めた。だけど、長い歴史は、許さなかった。神の国が、キリアスを呼び、屑花を産んだ。
「僕らは、ただの守人にすぎない」
最後の言葉が、終わらないうちに、横一文字に光が走った。世界は、2つに割れ、屑花は、地に沈んでいった。白夜狐の持っていた紅い傘が、アスファルトに落ちていった。花の様に。
「酒涙雨って、なあに?」
小さな子供が、母親に話しかける。
「七夕に降る雨の事よ」
「七夕に雨が降ったら、会えないじゃん」
「そうね・・」
地面には、変わりなく雨が降り、誰が落としたかわからない紅い傘に雨だけが、降り続けていた。
逢えないことの言い訳 蘇 陶華 @sotouka
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