増殖!トゲトゲネトネトシャーク VS 冷酷エイリアン

二八 鯉市(にはち りいち)

増殖! トゲトゲネトネトシャーク VS 冷酷エイリアン

 「まもなく、未確認地帯へのワープの準備に入ります」


 時は、読者諸君らが暮らす時代より百年ほど未来の話である。

 宇宙に存在する「未確認地帯」。そこにどんな星があるのか、それは仮説でしか語られてこなかった。だがあえてそこに単独先行として飛び込もうとする勇気ある若きパイロットが、ヒツジハラくんである。

 新たな星を見つける使命に燃えながら、隊員ヒツジハラくんは地球に残してきた友人たちの写真を見ている。


 「うっわ俺やっぱ写真写りわっる。これ絶対地球でコテツたちになんかイジられてんだろな……めんどくさ……でも餞別はくれるんだよなー、コテツ。あいつホント律義」


 宇宙船は今、使命に燃えるヒツジハラ隊員を乗せて「未確認地帯」へとワープした。


***


 ワープは無事に成功した。

 ヒツジハラくんは未確認地帯内を進んでいた。

 「順調、順調、っと。未知の地帯とはいえ、わりと安全だな」


 その時だった。突如、宇宙船が大きく揺れた。

「な、なんだっ!?」


 襲撃である。

 しかし、襲撃であるということすらヒツジハラくんは知る由もなかった。何かを知覚する前に、麻酔レーザーフラッシュを浴びたのである。


 強烈な光の明滅。一定のリズムで光るそれは、対象をあっという間に眠らせる。

 哀れ、ヒツジハラ隊員はバッタリと倒れた。


 やがて、彼を撃った宇宙人が、ハッチを解除し乗り込んできた。


 侵入者はスクリテプ・オケーア星人、2名であった。(この正式名称は長いので、以下オケーア星人と呼ぶ)


 オケーア星人2名は、ヒツジハラ隊員が眠っていることを確認すると、言った。

 「うーわっ、催眠光線初めて撃ったんだけどちゃんと当たった!」

「俺も俺も、研修の時以来だよ!」

「え、ってかこれ異星人だよね!? やっば、ホントに居たんだ! 写真撮っていいかな」

「いいんじゃね? いいんじゃね? 俺も撮るわ」


 ある程度喜んでから、二名はハッとした。

「やっべ仕事中なのに、はしゃいじゃった」

「ちょっと待ってこの写真保存だけさせて」


―—数分後、オケーア星人AとBは、ヒツジハラ隊員を見下ろした。


 「異星人相手とて動ずるな。職務は遂行せねばならぬ」

「では早速、この異星人を調べるぞ」

 彼らにとっても初めての異星人である。肌の色はこんな色、背丈はこれぐらい、ほうほう、なるほど。読者諸君、彼らにとっても地球人はエイリアンなのだ。


 「見ろ、写真があるではないか」

「ああ本当だ。……同じ年ごろの者たちだ。きっとこの地球人の友だろう」

「なるほど、彼にも友がいるのだな」

AとBは僅かにしんみりする。


―—オケーア星の上層部は短気ばかりだ。きっと、新たな星があると分かれば侵略を企むだろう。和平は望めまい。


 AとBは互いが感傷に浸っているのを見ると、お互いにやれやれという顔をした。咳ばらいをすると彼らは、”仕事の顔”へと戻った。


 彼らはすやすやと眠るヒツジハラ隊員の手荷物を漁った。


 「む、これはなんだ」

「映像媒体だな」

AとBは、何らかのラベルが貼られたディスクを発見した。

「何か彼らの星を知る手がかりになるかもしれない」

「成る程」

かちかち。動かしている内に、


 ぶおんっ。


 モニターが起動した。彼らが触っている内に、いつのまにかメディアは再生されたようであった。

「これは好都合」

AとBはモニターを眺めた。


 そして数十分後。

 オケーア星人2名の目は、モニターに釘付けになっていた。


――悲鳴。

――襲われていく人類。

―—異形の怪物に覆われていく、地表。


 なんということだろう。

 なんということなのだろう。


 呆気に取られている内に、ディスクの再生が突如止まった。どうも、先程のオケーア星人の襲撃のせいで再生機器に故障が生じたようである。

 だが、たとえ10分足らずの映像とはいえ、2名が地球の状況を理解するのには十分だった。 

 AとBは顔を見合わせた。


 「……まさか、まさかこんなことになっていただなんて」

「なんと、気の毒な……彼は孤独な旅をしていたのだな」


Aはヒツジハラを見やり、Bはヒツジハラが持っていた「友の写真」をなぞった。


 二名は顔を見合わせ頷く。

「あの有様では手はつけられまい。侵略を狙うなどはなからムリだ」

「我々の技術力をもってしても、あそこまで星が壊滅してはお手上げだ。いやむしろあんな化け物が跋扈する星に近づいてはならない」

「帰ろう、我々は我々の星を大事にしよう」

「上層部への報告はどうする」

「一つの星が、住まうもののエゴにより壊滅した―—そう伝えよう。気の毒にな」

「なぁ。彼は我々が引き取るべきだろうか」

「やめろ、情けをかけるな。我々とは相いれぬ星のものだ。彼はこれから一人、この銀河を旅し、彼の星の生き残りとして歴史を残す使命があるのだ。下手な同情をしてはならない」

「……そうだな」


 オケーア星人は荒らした手荷物を丁重に元に戻し、彼らの船に戻った。

 そして遥か彼方の星へとワープし、去って行った。


****


 「うーん?」

 ヒツジハラ隊員は目を覚ました。何故だか床で寝ていたようである。

 すぐに身体をスキャンしてみたが、「健康状態 異常ナシ」と判定された。

「もっとちゃんと睡眠とらなきゃだめかなぁ」

ぼやきながら、隊員はふと自身の鞄に目を止める。

「あれ」


 鞄からぴょんと飛び出たディスク。地球の仲間からの餞別で、飛行が落ち着いてから開けてみようと思っていたのだが。


 ディスクには小さな字でこんなことが書いてあった。

「親友へ 旅の慰めになれば幸いである」

 悪友コテツの字である。

 であるならばこれは、絶対慰めにならないモノだ。


 ディスクを再生する。何故か再生機器は調子が悪かったものの、幾度か調整するとそれは視聴できた。


 それから3分後、ヒツジハラ隊員は、

「何を入れてんだよコテツ!」

つっこまざるを得なかった。


 そのディスクは伝説のB級映画として名高いパニック映画、「増殖! トゲトゲネトネトシャーク3 ~あの増殖トゲトゲシャークにネトネトまで!? 果たして人類は生き残れるのか!? 地球はどうなるのか!?~」であった。

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