いまはおやすみ
シンカー・ワン
excuse
とっぷりと日の暮れた迷宮保有都市バロゥ。
その一角にある
借りている部屋の扉が開き、疲労困憊した借主たちが足取り重く入ってくる。
「……ふぇ~、ようやく着いたぁ」
心底疲れたといった風にベッドへと倒れ込む
負傷したのだろう、
「……」
言葉なく深い息を吐いてベッドに腰かける
最後に入室したのは
ふたりほど外見に乱れはないが、消耗しているのが見て取れる。
魔物退治の依頼。一党の実力ならば十分にこなせるはずだったが、予期せぬ反撃を喰らいこの有り様。
依頼自体は達せられた。が、一党の損耗は予想以上で現状に至る。
疲れ果てた重い体から装備を解き夜着に着替え、やっと一息。
真言魔法の連発で酷使した、鈍痛する頭で女魔法使いは考える。今日の不手際とそれを招いた原因を。
自分たちの力を過信していた? 魔物を侮っていた? 目算が甘すぎた? 初めから強力な攻撃呪文を使うべきだった? あるいは前衛に防御呪文を重ねるべきだったのか? 魔物の弱体化を優先すべきだったのか? 戦闘継続しつつの治癒回復手段があればよかった? それともそれともそれとも……。
いくつも思い浮かぶ。どれも正しいようでどれもが違うような気がする。
疲弊した頭でよい考えが浮かびはしないのがわかっているのに、それを止めることができない悪循環。
良くない考えばかりが頭の中を埋め尽くしていく。
「――ねぇさんっ」
堂々巡りする思考にハマり抜け出せずにいたところに声をかけられ、ハッと顔をあげる女魔法使い。
仰ぎ見れば心配げなまなざしを向ける熱帯妖精と忍び。
「大丈夫か? 頭、痛いのか?」
「疲れているのだから横になった方がいい」
前衛で戦った自分たちの方が疲れているだろうに、人を思うその気遣いが嬉しくて、
「――ありがと」
小さな声で感謝を告げ、ふたりを抱きかかえる女魔法使い。
「……少し考えすぎてた。もう大丈夫」
そう言って放すと満足げな顔と照れくさそうな顔が並んでいる。
「次はもっと上手くやるとして、今は眠って回復に努めましょう」
笑顔を作って語りかければ、ふたりは頷き返しそれぞれの寝床に戻る。
――今はこれでいい。
不備を見過ごしていいわけはないが、これも経験。
失敗は、次に活かせばいい。生きていれば何度だってやり直せる。
女魔法使いの口元に小さな笑みが浮かぶ。
泥沼のような思考のループの中、脳裏をかすめたひとつのアイディア。
自分たちに足りないピース。それを頭の片隅において、女魔法使いも寝台に横になる。
明日、夜が明けてからふたりに話そうか。どんな顔をするだろう? 反対されるかな?
朝が楽しみだ、そう思いながらねぇさんは深い眠りに落ちた。
いまはおやすみ シンカー・ワン @sinker
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