エピローグ ~御馳走様の御挨拶

第27話 御馳走様の御挨拶

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 本日お二人には、ワタクシの仕様もない与太話にお付合い頂き、改めて厚く御礼申上げます。これで私、心おきなく死ねますとまでは申しませんが、少しばかり肩の荷が下りたような気も致します。

 人間様家業を66年もやって参りますといろいろありますが、何と申しても、列車食堂という場所で、美味い不味いはともあれ、しっかりと飲み食いさせていただけるだけの状況を与えられていたことには、感謝感激ものであります。

 幸か不幸か、世の中は大衆化の方向に向かっておりまして、列車食堂もその例に漏れません。昔に比べ、時とともにずいぶん簡便化されてきているように思えてならんのは、決して私一人の気のせいではないでしょう。

 おそらくこれから先、列車に食堂車なんかつけていられないような時代が来るかもしれません。それも間違いなく、その時の社会情勢によるものであろうと思います。個人的には、そんな時代に生き永らえたいとは思っていませんけどね。

 でも、別の形での飲食の楽しみができるとは思っております。


 とはいえ、かくも列車内の食堂車という場所で楽しく飲食できる時代に、こうして生き永らえて来たことには、大いに感謝しておる次第であります。

 もちろん、私のような生活ができる人はこの社会でもさほどいるとは思えません。

 そんな中でも、こうしてありがたく仕事を頂け、こういう楽しみを頂ける世の中に生かせていただきました。


 御存じの通り、私は工学者としてだけでなく、エッセイストとしての肩書もあります。これは本日もお話しましたとおり、若い頃に文章力を鍛える機会をお与えいただいた菊政さん親子の御陰でございます。

 そういう機会を与えられたからこそ、こんな経験も多々できたわけであります。

 本日はありがとうございました。

 幸い、まだもうしばらくこの世で生きられそうであります。

 諸君におかれては、また機会を見てお付合いただければ幸甚に存じます。


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 かくして、この日の食堂車談義は終った。

 後日また同じような話があったと伺っておりますが、それにつきましては、別の機会に披露させていただきましょう。


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システマチックに、粋に ~列車食堂談義 後編 与方藤士朗 @tohshiroy

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