第26話 物事の適正なやり方とやり時 2
石村君は確かに計算は苦手であったが、それが物理学者になる上で致命的であったかというと、必ずしもそうではない。彼のあの実験に対する執念と、そこから産み出される素晴らしい着想。論理も、しっかりされておりました。
ところでもし、彼が今の時代のどこかの大学の物理学教室で、計算ばかり仕込まれたら今のようになったかというと、そうは思えんですね。あの落ちこぼれの落第生、そんなところがオチかもしれん。
むしろ彼は、物理学なんかより工学部で機械工学でもやった方がよいのではないかと、そんなことを言われるのがオチです。
私は元来工学系の学者ですから、石村君以上に実験を繰り返してまいりました。
そんな私でも、石村君のあの実験への情熱は、惚れ惚れするほどでした。
物理学は、私どもの機械工学ほど実験云々言わないでもやれるかもしれません。
しかし、あの時たまたま兵器開発という、それがよいとは言いませんけど、ある目的に向けて、自分たちの学問を応用して何かを作り上げていかねばならないときには、確かに、彼のような研究姿勢は大正解なのです。
もっとも、これが文科系の一般教養で物理学を履修している学生さんには、そんなところまで必要なかろう。
とりあえず、講義で堀田先生なり石村先生が話されたこと、板書されたこと、それを読み直して、試験に出るぞと偉大なる堀田先生様の思し召しとやらを、試験の当日当座、きちんと紙の上で再現すれば、それで単位くらいとれましょう。
文科系の諸君にしてみれば、それが十分な対策というものです。
もちろん学者になろうかという石村君や堀田君がそんな調子ではだめですけど、これが逆に法学や経済学の一般教養ならどうかな?
堀田君にせよ石村君にせよ、今私が申した程度の対策で、十分ではないですか。
その逆もまたしかり。
法学部で司法試験を通して法律家になろうという人が、法学のそれも民法や刑法の一番肝心な講座をそんな調子で受講していてはどうかナ?
大学の試験と司法試験の合格答案の作成は違うと言われればそれまでではありましょうが、一般教養の物理学に臨むような姿勢でいいとは、素人の私でも到底思えません。
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