月の女神からの寵愛

!~よたみてい書

いいわよその剣

「はぁ、はぁ、誰か助けっ」


 助けを呼ぼうと大きな声を出そうと試みたけど、疲労も溜まっているのかなかなか思うように声が出ない。

 辺りは静寂な暗闇に包まれているので、わずかな声でもよく響いていく。

 どうかこの小さな声でも誰かの耳に入ってくれればいいのだけど。

 しかしこんな人気のない平原、それも夜に助けなんて簡単に得られるだろうか。

 

 背後を振り向きながらただただ必死に走った。

 あいつはまだ追っかけてきている。

 イワンケ――六本足の哺乳類の胴体を持ち、首から上が刃状の武器になっている奇獣――が大きな鎌のようなものを威嚇するように左右に振りながら向かってきている。

 あの鎌でわたしのつるぎが切断されてしまった。

 噂以上に強敵だ。

 

 必死に逃げてはいるけれど、追いつかれてしまうのも時間の問題だろう。

 この窮地を脱する方法を思案しながら走っていると、前方に突然わたしと同年齢ほどの女性が出現する。


「いいよ。私の力をわけてあげる。大事に使ってね」


 背中まで濁りの無い灰色の髪がお尻までおおっていて、前髪がいいわけっぷりで額の中央で左右に流されておでこを広く見せていて、穏やかな目をした、体から光を発する女性。


 彼女が何か一言呟くと姿が徐々に透けていき、なにも無い空間が目の前に戻って来た。


 一体何だったのだろうか。

 死ぬ前のわたしが幻想を見てしまったのだろうか。


 なんてことを抱いていると、右手に違和感を感じた。

 視線を向けると、折れていた刀身が復活している。

 それだけではない。

 刃の長さがわたしの脚と同程度まで伸びていて、さらにお月様のようにうっすらと白く輝いている。

 何が起こったというのだろうか。


 ただ、何となくだけどわたしの本当が訴えかけている。

 このお月様のような明かりを灯すつるぎを振るえば、イワンケを撃退できるかもしれないと。

 諦めていいわけがない。

 戦え。

 戦うんだ。


 剣の握りに力を込め、背後を振り向いた。

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