鼓動

@mtmynnk

鼓動

『気になる男の子にはボディタッチが効果的!』

食堂に誰かが置き忘れたファッション雑誌。表紙の見出しに書いてあった。

「ボディタッチか……」

本当なのかな?どんな男の人にも効果があるの?変わり者のあの男にも?恋愛に鈍感なあの男にも?

それで私達の距離は縮まるのかな。

あの男はドキドキしたりするのかな?


食堂を出て用事をこなす。どこかしら時間がかかるのは考え事をしているからだ。

最近あの男の事を考えてばかりで調子が狂う。

椅子から立ち上がるとあの男の声がした。

「ちょっと話いいですか?歩きながらでいいんで」

「はい」


並んで廊下を歩きながら要件を話す。事務的な会話。今日は冗談を言う気にもならない。

そんな日に限ってあの男はつむじから寝癖を出している。

「あの……」

「はい?」

「寝癖ついてますよ」

「え?どこですか?どこ?」

「つむじの……」

そこでふと思い出す。


『気になる男の子にはボディタッチが効果的!』


寝癖直しを言い訳に髪に触れてみようかな。

少しの時間なら変だと思われないよね。


あの男は頭の上で手を動かしている。

「寝癖どこですか?鏡あります?」

「だから、つむじの辺りから髪が跳ね……」

「待って」

あの男は私の動きを静止する。

何かを睨み、その方へ立つ位置を変えた。私を守るかのように。

あの男の睨む方を見ると、いかにも不審者と言わんばかりの男がいた。

あの男は私の盾となり、後ろ手で私に合図を送った。


「先に帰って」


あの男はこちらの目を見て頷く。

私が戸惑っていると、あの男は首を振って続けた。


「僕は大丈夫、振り返らないで」


私もあの男の目を見て頷き、その場を立ち去った。

背中越しにあの男の声が聞こえる。

「ここは関係者しか入っちゃダメなんですよ。僕が話を聞きますね」

不審者のトーンが下がるのがわかった。


私はあの男に守られたのだ。あの男に。

ドキドキしている。この気持ちはどうしたら良いのだろう。

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